独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
さいばい日記
クロソイ編 2008年7月の日記



クロソイです
大きくなったでしょう

2008年7月
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 2008年7月31日 標識付け (飼育72日目)

宮古に短い夏がやってきました。
この頃になると,海の中の水温も20℃近くになります。
野田はセンター近くの海水浴場で,海パンにカメラという怪しいスタイルで海水浴に行きます。
そして,海の中でも天然のクロソイと目が合います。
他の職員には,センターにたくさんいるのに,わざわざ潜ってまで見に行かなくても…
と思われていることでしょう。


  クロソイに睨まれています。

天然にもクロソイはたくさんいるので,育てた種苗をそのまま放流してしまっては,
市場で見分けがつかず,効率よく調査ができません。
そこで,今日は天然魚と放流魚を識別するための標識付けを行います。
標識は,ダートやアンカーなど,外部に付ける標識もありますが,
今回の標識は「腹鰭抜去標識(はらびればっきょひょうしき:左右どちらかの腹鰭を抜く)」です。
ちょっと,いや,かなり魚にはつらい標識方法です。
腹鰭は泳いでいるときのブレーキの役目をします。
クロソイは天然魚,放流魚ともに,あまり大きな移動はしないので,
この標識を行っても,影響は無いようです。
実際,腹鰭の抜けたクロソイも,たくさん市場に揚がってきます。


  鰭抜去標識で天然魚と放流魚を見分ける。

標識作業は,ホシガレイの時同様,人海戦術です。
センター職員だけではなく,漁協,市役所,県の職員の皆さんに力を貸していただき,協力して行います。
標識を付けるクロソイの尾数は2万尾。結構な数ですが,ひたすら鰭を抜きます。
しかし,慣れてくるとスピードも上がります。
最初は一人のスピードが,1時間あたり400尾程度でしたが,終わり近くになると,
1時間あたり600尾程度と,1.5倍の早さになります。
こうして,作業は無事1日で終了しました。皆様,御協力どうもありがとうございました。
標識を付けたクロソイは,来週,放流します。


  標識作業中(左)。毛抜きでひたすら鰭を抜きます…(右)

先日,携帯を壊してしまいました。
しかも,落としたのに気づかず,車で引くという,業務上過失破壊です。
クロソイにとって標識付けは痛い作業と思われますが,
野田にとってこの携帯破壊は予想外の出費に加え,データも全て吹っ飛んだことで,
別の意味でイタイ出来事でした…
 2008年7月24日 種苗配付 (飼育65日目)

昨日の夜,地震がありました。
宮古周辺の震度は5強。今までに経験したことのない大きな揺れに飛び起きました。
野田は無事でしたが,職場の方は配管が外れたり壁にヒビが入ったりしていました。
一方,不幸中の幸い,魚たちも無事でした。

こうして大地震も経験したクロソイたち。
今日,青森県の下北半島にある漁協に配付されます。
今回育ててきたクロソイのように,栽培漁業で育てた稚魚のことを「種苗(しゅびょう)」といい,
種苗を都道府県の漁協などに試験用に提供することを「種苗配付」といいます。
配付されたクロソイは,漁協の施設で
中間育成(放流に適した大きさになるまで育てる)の方法を模索したり,
放流に適した場所を検討する試験などで活躍します。

輸送作業の流れは,まず輸送用水槽に海水を汲み,
輸送中に水槽内の酸素が不足しないよう,ボンベからの酸素の出具合などを入念にチェックします。
その後,バケツリレーで種苗を今まで飼育していた生け簀網から輸送用水槽へ移します。
そして,酸素の濃度や魚の落ち着き具合を見て,出発です。
ここでミスがあると,クロソイたちが全滅してしまう可能性もあるので,たいへん神経を使います。


 ここでもバケツリレー(左),そして稚魚は輸送水槽へ(右)

これで終わりではなく,クロソイが配布先の飼育海水に慣れるまでが輸送作業です。
この日は,8時半に輸送を開始して,「着いたよ〜」の連絡があったのは3時過ぎ。
クロソイたちにとって,6時間以上の長旅でした。
でも何事もなかったようで何よりです。

子どもたちの旅立ちは少し寂しい気もしますが,新たな地できっと活躍してくれることでしょう。
残ったクロソイたちの飼育は,もうしばらく続きます。

種苗配付をする日は朝早く出勤するのですが,なぜかヘビに良く出くわします。
特に気温が高くて小雨が降っているようなときに,出くわす可能性が高いです。
宮古栽培漁業センターに来て3年目,1年に5回ほど種苗配付を行いますが,
そのうち最低1回は,職場内をにょろにょろしている姿を見かけます。
たいてい,アオダイショウやシマヘビといった,無毒なヘビです。

実は野田は学生時代,上野動物園の両生爬虫類館で2週間ほど実習を行い,
自分の腕ほどの太さのニシキヘビに餌をあげたり,ケージを掃除したりした経験があるため,
ヘビに対してあまり抵抗がありません。
今年は,梅雨明けしてからも梅雨のような天気が続いていました。
ヘビいるかなぁ〜とトラックが来るまでうろうろしていたら,やっぱり。
今年はアオダイショウの他,ヤマカガシにも出会いました。
こいつは毒蛇です。
写真を撮ろうと思ったのですが,シューシューと威嚇されたので,ヤバイと思い,
あえなく断念。…負けました…








配付の時に見つけたアオダイショウ。
とりあえず捕まえて写真
 2008年7月18日 生け簀網を替えよう (飼育59日目)

先日クロソイが餌をいっぱい食べるという話をしましたが,
餌を食べると言うことはその分糞も多く,そのままにしていると水や生け簀網が汚れてきます。
そこで, 1週間に1回程度,魚を別の水槽の生け簀網に移す作業を行います。

ここで宮古栽培漁業センターの基本作業の一つ「バケツリレー」が行われます。
魚をバケツで水ごとすくい取って運ぶのです。
この方法が,一番手っ取り早く,魚にとってもダメージが少ないのです。


 みんなで列を作ってバケツリレー

そして,終わった後は生け簀網や水槽の掃除。
これも普段はパートさんに協力してもらうことが多いのですが,今回は野田がやってみました。
カッパを着て,機械を使い,ホースから高圧の水を出して,水槽を洗っていきます。


 水槽掃除中

こうしてやっと水槽がきれいになったと思っても,
1週間後には再び同様の作業をしなければなりません。
魚が多いと,水槽洗いなどもかなりの手間です。
でも,このような水槽の管理やメンテナンスを行わないと,
魚に影響を与える病原菌が発生したりするので,手を抜けません。

さて,野田の家は,ここ最近の業務多忙により,いつになく散らかっています。
先日,給気口のフィルターを替えようとしたら,エラいことになっていました。
1週間に1度とは言いませんが,1年に1回はやらないと(説明書には3ヶ月に1回と書いてありました…)。
こっちに来てから給気口をいじったのは初めてでした。
つまり2年放置していたわけですね。
…たまには家のメンテナンスもしないと駄目ですね…
 2008年7月13日 魚に餌をあげましょう (飼育54日目)

野田は肉より魚介類をよく食べます。
というのも,宮古では魚介類が美味しいので,ついついこちらに偏ってしまうのです。
日本人の動物性タンパク質摂取量は,魚介類:肉類=4:6というデータがありますが,
野田は魚介類の圧勝です。
健康的かと思いきや,野菜が足りていないのでプラスマイナスゼロ。
ビタミン不足はずっと続いているので,むしろマイナスかも知れません。
最近,「現実島避」もしてないので,それで得られる栄養素「島分」も切れてきました。

一方,クロソイたちはというと,もっぱら配合飼料を食べています。
一時期は人影を見ると逃げていたクロソイですが,このサイズになると,
「人が来ると餌が来る」と学習してしまうのか,完全に人慣れしています。
餌をやると,全く無警戒で,わらわらと集まって来ます。
おまけに大食漢。ガツガツと食べて,お腹いっぱいになると集まって来なくなります。
担当者同様,たいへんわかりやすい魚です。

この餌の食べっぷりこそ健康な証拠!
こうした調子でどんどん大きくなっていきます。
その成長は2週間で1cm以上と,結構な速さです。
20万尾ものクロソイに餌をあげるのは大変な作業。
野田一人ではとても無理なので,パートさんの協力を得てやっています。
餌やりに限らず,全ての作業で助けてもらっています。


 ↑配合飼料 大きくなるに従って,餌も大きくなっていきます。


 生け簀のクロソイ(左)と餌やり風景(右)

この時期になると,クロソイを中間育成や放流試験のために各地に配付する日程が決定します。
今年の配付は7月末から始まりそうです。

配付用のクロソイの飼育は終盤に差しかかってきましたが,
実験用に飼育しているクロソイやキツネメバルの飼育は,まだまだ続きます。







飛び入り参加。
キツネメバルだよ〜
 2008年7月10日 会議出席で出張

計数の結果,必要尾数に達していたことがわかってほっとしたのも束の間,
今日は青森県で行われる「平成20年度クロソイ中間育成試験担当者打ち合わせ会議」に出席します。
毎年,この会議には青森県の漁協や試験場,行政担当者等が集まり,
昨年度の中間育成試験の報告や放流状況,今年の試験計画などが話し合われます。
野田はこの会議で研究成果のプレゼンテーションも行います。

昨年度は,ちょうどクロソイ中間育成ガイドができたので,この話をしました。
今年は,栽培漁業センターHPトピックスNo.89123129のような内容をまとめて発表しました。
特に,大型魚が増加したことについて,関心が高かったようです。






ホタテで有名な陸奥湾に位置する
「青森県水産総合研究センター増養殖研究所」
海の向こうには下北半島と恐山が見えます



会議が終わった後も,
青森県の増養殖研究所で種苗生産しているウスメバル→
について,県の担当者と一緒に観察を行い,
今後の課題について話をしました。




実は野田は,さいばい日記に書いているクロソイ以外にも,
メバルやキツネメバル等のソイ・メバル類の研究もしています。
ウスメバルもメバルの仲間なので,青森県で行ってきた飼育の結果や放流状況などは,
非常に参考になります。
もちろん,宮古栽培漁業センターも青森県の研究に協力しています。
写真は,青森県から依頼されたウスメバルの検査,染色作業の様子です。
特殊な液で染色することによって,骨の形成過程などを調べることができるのです。







染色作業中
いつもの野田とは違う雰囲気?







染色したウスメバルの仔魚
骨がよく観察できます


場所や,手がけていることは違っても,
目指すべきは「水産業の健全な発展」や,「つくり育てる漁業の推進」です。
こうして協力体制を構築していくことは,栽培漁業を効果的に進めていく上で必要不可欠です。
栽培漁業センターは魚を育てるだけではなく,こうした取り組みも行っているのです。

…こうして仕事は増えていく …給料は…増えません…
一番重要なクロソイの飼育が下手ですから…
 2008年7月8日 計数 (飼育49日目)

さて,今日は魚の数を数える「計数」を行います。
先日の選別で大小に分けたうち,大きな魚は既に計数を終えていたのですが,
小さな魚は,大きな魚よりダメージが残りやすく,死んでしまう魚もちらほら見られるので,
取り上げの次の週まで落ち着かせてから行います。

計数の作業は職員総出で行います。
ホシガレイやヒラメの飼育で忙しい大先輩も助っ人に来てくださいました。
ありがとうございます。
 

 計数作業。野田は記録係。
 一番右でぼーっとしているわけじゃありません!

バケツで計数中。野田がすごく偉そうにしてる!
(まさかこんな写真を撮られているとは…)


計数は
 1.タモ網で魚をすくって,バケツに入れ,重さを量る。
 2.その中に何尾いるか数え,1尾あたりの重さを計算して求める。
 3.何万尾もいる魚をいちいち数えるのはたいへんなので,
  先ほどわかった1尾あたりの重さを基準にして,あとは魚の重量だけを量っていく。
 4.全ての魚の重量を1尾あたりの重量で割り,尾数を求める。
という順序で進めます。

その結果,取り上げた魚は合計14.2万尾。
最初は42.0万尾いたので,生残率は33%。
これは非常に低い値です。
クロソイの種苗生産で,稚魚が大量に死んでしまうケースとしては,
 飼育初期での死亡
 エア食いなどによる死亡
 共食いによる死亡
と ,3つあるのですが,この3つの地雷をことごとく踏んだのが原因です。

今回,育ててきたクロソイは各地に配付され,
中間育成の試験や標識放流などに使われることになっています。
ですから,ある程度の量のクロソイ稚魚が飼育できていないといけないわけです。
この水槽以外でも,新しい飼育方法の試験用にクロソイを飼育しているので,
これらを合わせると,全部で22.5万尾。
ちなみに必要尾数は21.5万尾です。
毎年,必要な尾数ギリギリしかできず,場長始め,皆様の心臓に悪いことをやっていますが,
今年も見事ギリギリの尾数。
また皆様の寿命を縮めたかもしれません。 

ここまで来れば,さいばい日記も強制終了の可能性は低くなります。
野田だけではなく,宮古栽培漁業センターの皆様,ホームページ管理人,
そして日記を見てくださっている方々を脅かしましたが,何とか先が見えてきました。
 2008年7月3日 取り上げ (飼育44日目)

飼育開始から1ヶ月半,今日はいよいよ取り上げです。
取り上げの方法はホシガレイと違い(参照),
まず,魚を網で囲い(写真1),それをポンプ(フィッシュポンプ)で吸い取っていきます(写真2)。

 
 写真1 まずは囲って               写真2 魚を吸い取るフィッシュポンプ

輸送に活躍するのが,このフィッシュポンプという不思議な機械↑。
どういう仕組みか知りませんが,魚は大きなダメージを受けることなく
ホースの中を通っていきます(写真3)。
そして,隣の建物にある大きな水槽の生け簀まで運ばれます(写真4)。

 
 写真3 ホースは隣の建物まで伸び      写真4 生け簀へ到着!

これで終わりではありません。
こうして網生け簀に入れられたクロソイは,共食いを防止するため,
すぐに大きな魚とそうでない魚に選別されます。
金属製の選別カゴに魚を入れて,小さい魚を逃がします。
こうすることによって,小さい魚と大きな魚を分けることができるのです(写真5)。

 
 写真5 大小を分ける               写真6 大きな魚は隣へドボン!

選別された大きいほうの魚は,隣の生け簀へ移されるのですが,これが結構ダイナミック(写真6)。
魚の入ったカゴをひっくり返します。
しかし,大きい方の魚にとってはこのくらいどうってことありません。
現に,これを行った後,すぐに餌を食べます。
野田もこの位のタフさが欲しいです。

一方,十分に大きくなれなかったクロソイにとって,
こうしたバケツやタモ網で掬うという作業もかなりハード。
これに耐えうるような大きさまで成長できなかった魚は,ここで星になってしまいます。
しかし,今年はその数が比較的少なかったような…え,魚が少ないだけ?
この後は最終的に何尾の魚が生き残っていたのか調べる,計数という作業に入ります。

この計数の結果は…次回のお楽しみ☆
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