独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
さいばい日記
トラフグ編 2009年4月掲載の日記








 ピンクリップス



2009年4月
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 2009年4月3日  その2 引き受け手,あらわる 2009.4.28掲載

うれしいニュースです!
行き場を失いかけていたヤングフーチャンの卵に,引き受け手が見つかりました。
私たちと同じく,放流用のトラフグ稚魚の生産を毎年実施している静岡県温水利用研究センターで,
ヤングフーチャンの卵を飼育試験に利用してもらうことになりました。
南伊豆栽培漁業センターを含め三重県,愛知県,静岡県にある5つの栽培漁業センターでは,
トラフグ稚魚を効率的に,そして安定的に生産するため,余った卵などを互いに融通し合っています。
心強い連携体制があるおかげで,毎年のトラフグ稚魚の生産に安心して臨むことができます。

輸送にむけて,卵の梱包作業を進めます。


早速,静岡県温水利用研究センターのトラフグ担当者が
南伊豆栽培漁業センターへ卵の受け取りにやってきました。 
「おつかれさま〜,今シーズンもいよいよだね」と手短に挨拶をすませると,
さっそく輸送にむけて,卵の梱包作業を進めます。
卵を管理する専用水槽の海水を徐々に排水しながら,タモ網ですべての卵をすくい取ります。
そして,卵の重さを量りながら輸送用のビニール袋の中へ,卵を均等に収容していきます。
酸素を注入して,ビニール袋の口を輪ゴムで縛れば出来上がり!
さぁ,卵が傷まないように,すぐに出発です。

ヤングフーチャンの卵たち,むこうへいって立派な稚魚に育ててもらうんだよ。
引き受け先が見つかって,ヤングフーチャンも喜んでいることでしょう。
過去の日記
 2009年4月3日  サクラちゃんもゴールイン! 2009.4.16掲載

やはり来ました!
ミナミノサクラが本日,産卵日をむかえました。
おめでとう,サクラちゃん!
ヤングフーチャンの時と同じ要領で,完熟卵をお腹の中から搾り出します。
そして,7尾のオス親フグたちに協力してもらい,取り出した卵を受精させます。

ミナミノサクラは全長50センチメートルの3歳魚。
卵の量はそれほど多くはありませんが,後続のメス親フグたちが,数日以内に産卵してくれれば,
これらの卵を合わせて使うことで,稚魚の飼育をスタートさせることができます。

ミナミノサクラから卵を搾り出します。


まだ産卵日をむかえていないのは,
ピンクリップス,ランチバイキング,カミカミクイーンのヘビー級トリオです。
さぁ,ミナミノサクラを追随する親フグたちの診察を,本日もはじめてみましょうか〜!

ピンクリップス:
卵の大きさは1054から1208マイクロメートルに,体重は6.45から6.53キログラムにアップ,
卵が一気に大きくなりました。
期待通りの凄まじい追い上げだ〜! 

ランチバイキング:
卵の大きさは1001から1158マイクロメートルに,体重は6.50から6.77キログラムにアップ。
このままのペースでゴール目指して突き進め〜!

ランチバイキングのお腹もタプタプに膨れてきました。


カミカミクイーン:
卵の大きさは1085から1169マイクロメートルに,体重は6.62から6.76キログラムにアップ。
傍若無人な行動はこれくらいにして, 最後は私たちの願いを叶えておくれ!







親フグたちに噛みちぎられてボロボロになったタモ網。
補修の跡も痛々しい。



すでにヘビー級トリオのお腹の中の卵は,いずれも中が透けてみえるように変化しています。
最終コーナーを廻り,残るは最後の直線コース!
みんな一団となってゴールインしてくれ〜!
 2009年4月1日  まだまだ分からない! 混迷の中盤戦 2009.4.15掲載

排卵誘発剤を投与してから8日が経ちました。
後続の親フグたちは順調に成熟してきたでしょうか?
卵の大きさと体重の変化を5日前(3月27日)の測定結果と比較しながら見てみましょう。

ピンクリップス:
卵の大きさは961から1062マイクロメートルに,体重は6.33から6.45キログラムにアップ。
体重も卵の大きさも順調に増してきました。
しかし,先を進む親フグたちからは,ちょっと遅れ気味。
終盤戦で怒濤の追い上げを見せて欲しいところ。

体重測定中のピンクリップス。 


ランチバイキング:
卵の大きさは967から1001マイクロメートルに,体重は6.39から6.50キログラムにアップ。
太り過ぎがたたり,ちょっとペースダウンか?
脱落しないでみんなに食い下がれ〜!


カミカミクイーン:
卵の大きさは974から1085マイクロメートルに,体重は6.17から6.62キログラムにアップ。
体重も卵の大きさもグッと増えてきましたが,卵の中はまだ透けて見えません。
産卵にはもう少し時間がかかりそうです。






カミカミクイーン。
本日の体重は6.62キログラム。
月齢4ヶ月前後の赤ちゃんと同じくらいの体重です。



ミナミノサクラ:
卵の大きさは953から1054マイクロメートルに,体重は2.70から2.87キログラムにアップ。
そして,ついに卵の中が透けて見えるように変化してきました。
お腹もタプタプしてきたので,まもなく産卵日をむかえそうです。







丸々と太ったミナミノサクラ。
ラストスパートだ!



ヤングフーチャン:
もとの広い水槽へ戻って休息中・・・


とにかく,みんな ガンバレ〜!
いよいよ終盤戦に突入です
 2009年3月30日  その2 新たな命が動き出す 2009.4.14掲載

やっと登場の時が来ました!
メス親フグと同様に,2月に遠州灘からやってきた7尾のオス親フグの出番です。
メス親フグと同様に,大海原で漁師さんに釣られ〜の,トラックに揺られて天城峠を越え〜の,
針を刺されてガスを抜かれ〜の,栽培漁業センターの新たな環境に慣れ〜の,
タモ網で取り上げられて診察を受け〜の,と幾度の試練を乗り越えてきた強者のオス親フグたちです。
きっと元気な稚魚の生産に貢献してくれることでしょう。

さて,すみやかにヤングフーチャンが産んだ卵を授精させる作業に取りかかりましょう。
まずは,卵をオス親フグの尾数と同じ7つに等分します。
ヤングフーチャンが産み落とした卵の重量は0.74キログラムでしたので,
およそ0.1キログラムずつを計量し,7つの個別の容器に取り分けます
(なぜ,このようなことをするのかについては,後日ご説明したいと思います)。 

重さを量りながら,卵を7等分していきます。



そして,7尾のオス親フグを順番に麻酔で眠らせた後に,お腹をかるく押して精液を搾り出します。
そして,その精液を卵の入った個別の容器の中へ加えて,卵とやさしく混ぜ合わせます。

オス親フグから精子を搾り出し,卵の入った容器に加えます。



でも,これだけでは,精子はじっとしたままで,卵と精子は結合できません。
精子が運動を開始し,卵と受精するためには,この容器の中へ海水を加える必要があり,
これがスイッチとなり精子は卵へ向かって動き出します。
ただし,トラフグの精子が運動を続ける時間は,わずか30秒!
とても儚い命なのです。
ですから,海水を加える前に,個々の卵と精子ができるだけお近づきになっているように,
丹念に混ぜ合わせます。
そして,どうか,すべての卵が受精しますように!と祈りながら容器の中へ海水を流し込みます。

そして勝負の30秒!
この間も,撹拌棒で容器の中の卵と精子をゆっくりとやさしく混ぜ合わせます。
私たちにとってはアッという間の時間ですが,
容器の中では30秒間の壮絶なドラマが繰り広げられていることでしょう。







すべての卵が受精しますように!
卵と精子が入った容器の中へ海水を加えてかき混ぜます。
新たな命が動き出す瞬間です。



容器の中の不純物を洗い流した後,卵の中から赤ちゃんフグが生まれ出てくるまでの約1週間,
専用水槽へ収容して管理します。
これで卵を授精させる作業は終了となり,とりあえずホッと一安心ですが,
後続の親フグたちが近日中に産卵する気配は今のところ,全くありません。
残念ながらヤングフーチャンが産み落とした卵だけでは,
稚魚の生産をスタートさせるには卵の数が少な過ぎます。
このままでは,せっかくの卵が無駄になってしまいます。
どうにかして,この卵を活かす道を探さなければなりません。
残された時間はふ化までの約1週間。
ヤングフーチャンの卵たちに明日はあるのか〜!?



人工的に授精させた卵を専用の水槽へ収容します。
 2009年3月30日  その1 ヤングフーチャン ゴールイン! 2009.4.9掲載

あちゃー!
排卵誘発剤を投与して6日目,わたしたちの願いなど,まったくお構い無しに,
ヤングフーチャンがぶっちぎりの独走を保ったまま,産卵日をむかえてしまいました。
他の親フグたちをはるか彼方に置き去りにして・・・
みんなと一緒に卵を産んでくれないと,せっかくの卵が無駄になってしまうかもしれないのに〜!
そうは言っても,後続の親フグたちが確実に卵を産んでくれる保証は全くありませんので,
ヤングフーチャンの卵をしっかりとキープしておかなければなりません。

さて,ここで親フグから完熟した卵を取り出す方法について説明しましょう。
麻酔をかけて静かになった親フグを,1人が左右両側のエラ孔に人さし指を入れて,
ぶら下げるように持ち上げます。
そして,もう1人がたぷたぷに膨れた下っ腹を両手で包み込むように,じわーっと圧迫します。
すると,完熟した黄金色の卵が総排泄腔からドロドロと流れ出してくるので,
これを親フグの下に置いたバケツで受け止める,という方法です。

はち切れんばかりに膨らんだヤングフーチャンの下っ腹。


あまた存在する魚の中には,お腹の中の卵を複数回に分けて産み落とす魚もいれば,
すべての卵を1回で産み落とす魚もいます。
トラフグは1回ですべての卵を産み落とすタイプなので,
いざ産卵となると,出てくる卵の量は尋常ではありません!
お腹の膨れ具合から察すると,ヤングフーチャンも例に漏れず,
たくさんの卵をお腹の中に抱えているようです。
ヤングフーチャンの全長(頭の先からシッポの先までの長さ)は48センチメートル。
全長から推定すると,ヤングフーチャンは今年の春に3歳の誕生日をむかるヤングレディー。
一般的にトラフグのメスは3歳で初めて成熟しますので,今回が初産ということになります。
初産をこんなカタチでむかえるなんて・・・
おそらくヤングフーチャンは初めての産卵を目前にかなり緊張していることでしょう。
そうだ! 産卵の緊張をほぐす呪文を教えてあげよう。
「フーチャン,緊張した時はね, ヒッ,ヒッ,フー。 ヒッ,ヒッ,フー。 と唱えるんだよ」。

産卵日をむかえて緊張ぎみのヤングフーチャン


さあ,いよいよ卵をお腹の中から搾り出します。
ベテラン先輩の成生さんが左右両側のエラ孔に人さし指を入れて,
ヤングフーチャンをぶら下げるように持ち上げます。
麻酔液の付いた体表をタオルでキレイに拭き取るとり,いよいよお腹の中から卵を搾り出します。
さあ,いくよ〜! フーチャン,がんばってよ!
はち切れんばかりに膨らんだ下っ腹を両手でじわーっと押さえると,
堰を切ったように卵がドロドロ〜と勢い良く流れ出てきます。
フーチャン, ヒッ,ヒッ,フー。 ヒッ,ヒッ,フー。だよ! がんばって!
卵の量がとても多いので,何度も何度も繰り返しお腹を圧迫して,少しずつ卵を搾り出していきます。









完熟となった卵をお腹の中から搾り出します。
たちまちお腹がペチャンコにへこんできました。
ヤングフーチャン,がんばれ! 



みるみるうちに,卵を受け止めているバケツの底が見えなくなってきました。
逆にフーチャンのお腹は,ホッソリと縮んでいきます。
卵の搾り出しを続けること約1分間,ついにほぼすべての卵を搾り終えました。
ヤングフーチャン,お疲れさま!
産卵の労をねぎらいながら静かに水槽へ戻します。

さぁ,いったいどのくらいの量の卵が取れたでしょうか?
バケツに受けた卵の重さを量ってみると,なんと0.74キログラムもありました。
卵を搾り出す前のヤングフーチャンの体重が2.79キログラムでしたので,
ざっと体重の1/4が卵だったことになります。
このサイズの親フグとしては,とても多い量です。
よくぞがんばってたくさんの卵を産んでくれました。
ありがとうヤングフーチャン!

さて,次はいよいよ搾り出した卵を受精させる作業に移ります。
雄親フグの登場です!
 2009年3月28日  ヤングフーチャン 独走! 2009.4.7掲載

ヤングフーチャンの爆走が止まりません!
4日前には2.54キログラムだった体重が2.81キログラムにまで激増!
お腹はタプタプに膨らんできました。
そして,お腹の中の卵にも変化が現れはじめました。
光に透かして見ても中身が真っ黒だった卵が,ついに,中身が透けて見えるように変化してきました。
これはゴール(産卵)直前の兆しです。
ヤングフーチャンが他の親フグを寄せつけない一方的なレース展開で、
ゴールインしてしまうのかーーーーーーーー!!  

まだ,中身が透けて見えない未熟な卵








中身が透けて見えるように変化した卵。
産卵の時が迫ってきた証拠です。
 2009年3月27日  いきなり波乱の序盤戦! 2009.4.6掲載

さあ,排卵誘発剤を投与してから3日がたちました。
親フグたちは産卵に向けて順調に経過しているでしょうか?

ピンクリップス:
卵の大きさが949から961マイクロメートルにちょいアップ。
スローペースでのスタートです。
みんなに引き離されないようにがんばって!! 


ランチバイキング:
卵の大きさが924から967マイクロメートルにアップ。
順調にスタートし,中団の好位置につけました。

トラ模様が色っぽいランチバイキング



カミカミクイーン:
卵の大きさが916から974マイクロメートルにアップ。
ランチバイキングと並んで絶好の位置をキープ。

さっさと診察しないと,噛みつくわよ〜!!



ミナミノサクラ:
卵の大きさが939から953マイクロメートルにアップ。
標準的なサイズアップで,体力を温存しながらの堅実な走り出し。
みんなの動きにも気をつけて!!


ヤングフーチャン:
な,なんと,卵の大きさが926から1075マイクロメートルに激アップゥ〜!
他の親フグを尻目に,序盤から超ハイペースで先頭に躍り出ました。
フーチャン,ちょっと飛ばしすぎぃ〜。

いきなり波乱の幕開けです。
快速フーチャンの動きから目が離せなくなりました。
ピンクリップスが中盤で巻き返してくることにも期待しましょう。
 2009年3月25日  親フグたちを紹介します 2009.4.1掲載

さあ,ここで,今回,卵を得るために選ばれた,栄えある5尾の親フグたちを紹介しましょう。

【 ピンク リップス 】
釣主名   リュウエイ
ふぐ体重  6.21キログラム 
増加体重  0.80キログラム(15%)
卵の大きさ 949マイクロメートル

特 徴:大きなピンク色のくちびるがチャームポイント。
体重の増加,卵の大きさも申し分なし。
今シーズンの本命か!



【 ランチ バイキング 】
釣主名   タケマル
ふぐ体重  6.24キログラム 
増加体重  0.80キログラム(15%)
卵の大きさ 924マイクロメートル

特 徴:メタボ系のお腹が愛らしい。人の気配がすると
真っ先に寄ってきて,エサを独り占めする大食漢。
大きな体に比べ卵はいくぶん小さいので,産卵日は遅いかも。



【 カミカミクイーン 】
釣主名   ミズタニ
ふぐ体重  5.94キログラム
増加体重  0.50キログラム(9%)
卵の大きさ 916マイクロメートル

特 徴:タモ網を噛んだり,診察中に暴れたり,とても危険な親フグ様。荒い気性のためか前歯が一部欠けている。卵はいくぶん小さいが,気性が激しいだけに今後の展開は読み難し。



【 ミナミノサクラ 】
釣主名   タケマル
ふぐ体重  2.67キログラム
増加体重  0.18キログラム(7%)
卵の大きさ 939マイクロメートル

特 徴:目の上にある桜の花びら模様がカワイイ! 体重の増加,卵の大きさともに2キロ台の親フグとしては標準的。産卵までの日数も標準的であって欲しい。




【 ヤングフーチャン 】
釣主名 カイエイ
ふぐ体重  2.54キログラム
増加体重  0.29キログラム(13%)
卵の大きさ 926マイクロメートル

特 徴:胸びれを広げた格好が,水研センターのマスコット
「ふーちゃん」にそっくり。体重の増加,卵の大きさともに状態良すぎ〜。最速で産卵日をむかえるかも!?



以上の5尾が,産卵が間近に迫った親フグたちです。
個性的な顔ぶれがそろいました。

できることならば,5尾すべての親フグから得られた卵を使って稚魚を育てたいところですが,
そのためには5尾がほぼ同時に産卵日をむかえてくれなければなりません。
もしも,赤ちゃんフグの誕生日が離れていると,
いろいろな大きさの稚魚が1つの水槽の中に同居することになります。
すると,小さな稚魚は大きな稚魚にいじめられてしまいます。
いじめられたことが原因で小さな稚魚が病気になると,
その病気は水槽の中のすべての稚魚に広まってしまいます。
稚魚の大きさがばらついていると,良いことは1つもないのです。
そのため,親フグの産卵日が,他の親フグよりも,早かったり,遅かったりすると,
どんなに良い卵であっても,稚魚の生産には使いづらくなってしまいます。
すべての親フグが同着でゴールしてくれることを祈りながら,明日からの診察に臨みましょう!!
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