|
宮古栽培漁業センター 藤浪祐一郎
|
|
いよいよ開幕したサッカーワールドカップ南アフリカ大会。
本田でもなく、メッシでもなく、マラドーナ(?)でもなく、『経済』に注目してみましょう。
ワールドカップやオリンピックといった大きなイベントでは、
観戦チケット、放映権、関連グッズの売り上げなど、莫大なお金が動きます。
その経済効果は開催国の南アフリカだけでも1兆円程度、世界全体で考えると数兆円と試算されています。
この『経済効果』という言葉、『阪神タイガースが優勝したら・・・』とか、
『オリンピックを誘致したら・・・』といった場面でよく耳にしますよね。
でも、そもそもこの『経済効果』ってどうやって調べるのでしょう?
イベントが開催された場合、お客さんが増えますので、
飲食店、ホテル、交通機関、関連グッズなどの売り上げが増加します。
経済効果はこれだけではありません。
例えば飲食店の売り上げが増加するということは、野菜や魚など食材の売り上げが増加し、
食材を運ぶ運送業の売り上げが増加して、運送業者が使用するガソリンの売り上げが増加します(図1)。
関連グッズの売り上げが増加するということは製造業の売り上げが増加し、
繊維やプラスチックといった原材料関連産業の売り上げが増加する・・・といった具合に、
さまざまな産業に波及効果が生まれます。
また、雇用が増加し、給与として一般家庭に支払われる額が増えれば消費が拡大し、
さらに経済効果が発生するのです。
|
|
図1 経済効果波及のイメージ
飲食店の売上増加は食材の売り上げ増、運輸業の売り上げ増、燃油産業の売り上げ増をもたらします |
|
|
|
一見すると、計算が難しいと思える経済波及効果ですが、簡便に計算する方法があります。
それが20世紀中ごろにアメリカの経済学者、ワシリ−・レオンチェフによって開発された『産業連関分析』です。
この手法を用いれば、イベントの開催で生じた飲食産業の売り上げ増加が
どの産業にどれだけの経済波及効果をもたらしたか?といった難しい問題も
計算によって求めることが可能であり、実際に公共工事の事業効果評価などにも使われています。
産業連関分析以外にも経済効果を調べる手法がいくつかあり、
これらを組み合わせて、考えられる全ての経済効果を分析した結果が経済波及金額となるのです。
この考え方を栽培漁業に置き換えてみたらどうでしょう。
現在の栽培漁業の経済効果(事業効果)は産地市場における放流魚の水揚げ金額(Benefit)を
放流に要したコスト(Cost)で割った値、いわゆるB/Cで評価されています。
しかし、この計算では先に述べた波及効果は含まれていません。
また、産地市場から消費者の手に渡るまでの経済効果も全く考慮されていないのです。
栽培漁業の効果は放流魚が水揚げされ、消費者に届くまでの経済効果にとどまりません。
放流魚は全て漁獲されるのではなく、一部は海に残って成長・成熟し、
次世代の資源を産むという効果をもたらします(再生産効果といいます)。
また、マダイやヒラメでは種苗放流が遊漁船業にも大きく貢献していることがわかってきています(図2)。
図2 栽培漁業の効果
経済波及効果、遊漁への貢献、再生産効果等が考えられます。
副次的効果以外は産業連関分析、TCM、CVMといった経済学の手法で計算できます
|
|
|
|
さらに、放流体験学習などを通じて市民の皆さんの自然保護意識、
漁業者の資源保護意識を高める効果(教育的効果)などもあると考えられます。
このように栽培漁業の事業効果は多岐に渡っていますが、
これまでこれらの効果を評価する方法がありませんでした。
そこで、水産総合研究センターでは大学や府県の研究者と協力し、
平成20年から22年の3年計画で『栽培漁業の事業効果』を評価する手法の開発に取り組み、
平成22年の5月に1年目の研究結果をまとめた事業効果評価マニュアルの暫定版を公開しました。
暫定版では産業連関分析を中心とした波及の考え方や再生産効果の考え方をまとめていますが、
遊漁の考え方やコストの考え方などについて検討の余地が残っています。
現在作成中の改訂版では大学の経済学部の先生の意見も取り入れ、
暫定版よりもさらに進んだ内容になる予定です。
マニュアルの作成に当たっては
1.学術的根拠に基づいた公平性と客観性
2.誰でも扱える簡便性
を重視しています。
また、過大評価にならないよう十分注意しております。
完成までにできるだけ多くの意見を聞かせていただきたいと考えておりますので、
暫定版を読んでいただき、ご意見などありましたら、
宮古栽培漁業センターの藤浪までご連絡いただけますよう、お願いいたします。 |