独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
さいばいコラム
No.69 干支魚?『トラ』フグの暗号
2010.2.22
宮古栽培漁業センター 藤浪 祐一郎
宮古栽培漁業センターは毎日朝と昼の2回、市場調査をしています。
宮古魚市場に水揚げされるヒラメ、クロソイ、ニシン、ホシガレイ、マツカワについて、
天然魚か放流魚か?全長は?誰がどの様な漁法で漁獲したものか?といった項目について調査するのです。
この時期、朝の気温はマイナス5〜8℃まで下がりますので、寒がりの藤浪には辛い仕事になりますが、
放流した魚が何尾戻ってきたかを調べるためには欠かせない調査であり、『寒い』なんて言っていられないのです。

1月中旬まではサケ定置が操業しており、市場も賑やかなのですが、
2月に入るとサケの漁期も終わり、水揚げされる魚が少なくなります。
活魚水槽にはヒラメやクロソイが少々・・・と思いきや、この魚がいました。

高級魚トラフグ!(写真1)

数は多くありませんが、宮古でも漁獲されます。
今年はトラ年だけに、いつもより多く獲れるかな?
写真1 今年はトラ年。ボクの年!
しかし、今日のトラフグは何か違います。
よ〜く見ると、後頭部にツルっとした『光頭部』があります。
おまけに左の胸鰭が無い!(写真2)。

皆さんもうお分かりですね。
そう、このトラフグは放流魚だったのです。

トラフグは広い範囲を回遊するだけでなく、多くの県が放流していますので、
漁獲された放流魚がどの県で放流されたか判別できるように、
当事者だけがわかる暗号、「標識」がつけられています。
左胸鰭がないということと“ツルっ”としているのは
秋田県で放流されたことを表す標識なのです。 
  写真2 左胸鰭カットは秋田の証!
      チョット見にくいけど光頭部もチャーミングでしょ?
“ツルっ”としているのは焼印標識という標識方法によるもので、放流年により施す位置や数を変えています。
すなわち、カットされている左胸鰭、縦に2ヶ所の“ツルっ”標識…という暗号を解読すると、
このトラフグは2008年に秋田県で放流された1歳8ヶ月(2008年5月生まれ)の放流魚ということがわかるのです。

ということは、この魚は日本海を北上して津軽海峡を通り、はるばる宮古まで500km近く旅をしてきた事になります。
スマートなマグロやカジキならいざ知らず、この体型にしてマラソンランナーのような体力!
同じようにズングリムックリでお腹の出た藤浪も見習わなくてはいけません。

トラフグやサワラなど、多くの放流魚は県境を越えて広い海を移動します。
移動範囲の広い魚の放流効果を調べる場合、
放流された県内の市場だけに目を向けていたのでは本来の姿は見えてきません。
そこで、魚の移動範囲にあたる都道府県や国が協力し合い、
自県で漁獲された他県の放流魚の情報を交換する取り組みが始まっています。
このような努力が実を結び、高級魚と呼ばれる魚が増えてくれたら嬉しいですね。

魚を増やすための作戦は放流だけではありません。
魚をたくさんとり過ぎない、
小さい魚をとらない、
卵を持ったお母さん魚をとらない等の方法(資源管理といいます)でも魚を増やすことができます。
今後は放流と資源管理を組み合わせた『おさかな増殖作戦』により、海の魚を効率よく増やしていきたいと考えています。

また、増殖作戦にはもう一つ大切なポイントがあります。
それは魚が育つ海の環境を守ることです。
特に、藻場や干潟、河口域などの浅い海は多くの稚魚が育つ『魚たちのゆりかご』で、
このような場所が失われれば、魚はすぐに減ってしまいます。
藻場や干潟、河口域などの浅い海は私たち人間の生活域のすぐ近くにありますので、
みんなで大切に守っていく必要があります。
そう、おさかな増殖作戦に参加するメンバーには漁業者や研究者だけでなく皆さんも含まれているのです。

新鮮で美味しい魚をこれからも食べ続けていくために一人一人ができること、一緒に考えていきませんか?
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