独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
さいばいコラム
No.59 トラフグ標識作業 〜妄想劇場・不届き者の頭の中〜
2009.7.13
本部栽培管理課 今野 郁代
普段は横浜の事務所で机仕事をしている私ですが、
今回初めて南伊豆栽培漁業センターのトラフグ稚魚に標識作業をする事になりました。
去年や、その前のさいばいコラムを良く読み、
コラムNo.29の中にある『実写!装着作業』を何度も見たり、先輩方の話を聞いたりして、
イラストマー標識装着作業のイメージトレーニングをしての挑戦です。
とはいえ、聞くのと見るのでは大違い!
初めて見たトラフグの稚魚は、全長7cmほどで、こんな小さな生き物の胸びれの付け根に、
注射器のような器械を使って蛍光色のシリコンを注入するという、
初心者泣かせの作業を目の当たりにして、大変な所に来てしまった、と、ちょっと後悔が。
今更言ってもしょうがないので、腹をくくって、とにかく作業開始!
皆さん黙々と作業に没頭 一人だけいる不届き者・・
しかし、この作業、見るのとやるのでは段違い!
当然、お手本を見せてくれた方の様にはいきません。
トラフグをスポンジの上に寝かせ、
頭をグリグリ撫でて怒って体がまん丸になった所を逃さず注射!
蛍光色シリコン(今回は赤)を注入し、別の容器に放す、といった作業を繰り返すはずが、
容器の中にいるトラフグを捕まえる段階で、素早く逃げ回るトラフグに一人バタバタして、
奇声を発しながらの作業になってしまい、
いつもよりトラフグが騒がしいな、と慣れている方々には思われていたかもしれません・・。
悪戦苦闘しながらも、ひたすら作業を進めていると、
ふと、トラフグの表情に目が留まり、
針を刺された時の顔が個体ごとに違うような気がしたので、
更に注意深く観察すると、色々なタイプがいる事に気付きました。
スポンジの上のトラフグ もう好きにして!?
「お前の顔、忘れないからなぁ!」といった感じでにらんでくる恨み型、
針が刺さっている部分を見つめ「ヒーッ、何をするのー」とでも言いたげな怯え型、
キュッキュッキュゥと口をパクパクさせ鳴きながら怒って膨れていた筈なのに、
針が刺さった途端、口を開けたまま目をまん丸にして硬直してしまう緊張型、
逆に針を刺された途端、「もう駄目・・」と、ばかりに
白目をむく様な上目づかいをしながらプシュゥとしぼんで、ぐったりしてしまう気絶型、
中には、撫でられている事が気持ち良いのか、
魚なのに目をつむってしまい、ちっとも怒ってくれない穏和型?もいました。

作業の様子(動画 1.5MB。約15秒)
それからの作業は
「は〜い、チクッとするわよ〜」と言いながら
看護士姿でトラフグに針を刺している場面を想像したり、
調教師気分で
「いけない子ね、怒りなさい!」と本来の調教師とは矛盾している事を要望しながら
鞭でピシピシとトラフグを叩き、ごめんなさ〜い、と涙するようなトラフグを想像したりで、
はた目には黙々と作業をやっている様に見えているであろう私は、
頭の中で、一人妄想劇を繰り広げていました。

妄想話は内緒にして、休憩時間などに他の方々と話したところ、
初心者の皆様は色々あったそうで、膨らまなくて困った、とか、針を刺す前にトラフグがしぼんでしまった・・など、
私と同じ様な、けれど様々な体験をされていました。
それなら、妄想していたのは私だけじゃないかも?などと思っていたのですが、
帰りの電車で一緒だった職員と現場での作業話をしていた時に、思わぬ事実が突きつけられました。

「いや〜、標識作業は頭を悩ませずに、ただひたすら作業をするから何も考えずにすんで良いよね!」
作業中に妄想劇を繰り広げていた不届き者は、やはり私だけだったのかもしれません。
作業前は、あんなに真面目だったのに・・。
悲しい妄想族の習性を実感しながら、
知らない間に腕について落ちなかったイラストマーと共に私は横浜へ、
トラフグは三重県伊勢市の海へ無事に放流されました
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