独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
さいばいコラム
No.41 トラフグ栽培漁業の舞台裏 (6)
2008.11.19
前回のお話:さいばいコラムNo.39 トラフグ栽培漁業の舞台裏 (5)→
交渉決裂 !? …転じて、これが栽培だ!! 宮津栽培漁業センター 町田 雅春
放流作業への協力を交渉
平成12年から始まったトラフグの資源増大開発事業は、
漁業経営の安定と日本国民へ安定的に食の供給を行うために、
資源を増やし、持続的に利用するのが目的です。
したがって、もっともこの事業に深い関わりがあるのは漁業者ではないかと私は思っています。

そこで、平成14年に行った愛知県と南伊豆栽培漁業センターの共同放流で、
愛知県小鈴谷漁港から放流するという取り組みに、なんとか漁業者にも参加してもらえないかと、
愛知県水産試験場の担当者に相談してみました。
すると、水産試験場の担当者は
「漁業者に放流日時を指定して、協力できる人を出してくれ、なんて言っても“絶対に無理”ですよ。
でも、南伊豆栽培漁業センターが交渉して話をまとめることができるのなら、やってみてください」
との意見でした。

700g以下のトラフグは再放流している
(市場で規制サイズ以下の小型魚がいれば
漁協職員が計測し水槽から取り出す)
そこで、水産試験場の担当者2名と南伊豆栽培漁業センターの担当者2名で、
篠島、日間島、豊浜漁協に出向き、絶対に話をまとめる!という気持ちで交渉に臨みました。
篠島漁協ではトラフグ漁の代表者に集まってもらい
「放流日は8月7日(水)の午前6時、場所は小鈴谷漁港、
バケツリレーを行うため1漁協30人以上の協力をお願いしたい」と交渉してみました。
すると、
「水曜日は無理。放流する時間も早すぎて無理。人は集まらない。この放流作業には協力できない」
との返事で、気まずい空気が漂っていました。
「現在飼育しているトラフグ種苗は、これ以上過密状態で飼育したら互いに咬み合って種苗の質が落ちてしまうし、
これ以上トラフグが大きくなったらトラックの数を増やさなければならないのです。
それに、真夏のこの時期、午前6時までには放流作業を開始しないと水温が上がってしまい、魚が弱ってしまいます。
だから、今から日程を変えたり放流時間を遅らせることはできないのです」
計画を変更できない理由を詳しく説明しましたが、結局、まとまらず、交渉は決裂してしまいました。

「無理を承知で説明に伺いました。でも、このトラフグ共同放流は皆さんとともにやらねば意味がないんです!」
私の気持ちは収まらず、最後にこう啖呵をきり、篠島を後にしました。
「たった1日くらい、漁を休んで協力してくれたって…。
放流は慈善事業じゃなくて、あなたたちのために行っているんだ」
心の中はこんな気持ちでいっぱいでした。

次の、日間賀島漁協との交渉では、なんと、こちらの提案通りに了解が得られ、
作業人数も30人そろえてくれることに決まりました。
と、その時―
私の携帯電話に、あの、交渉決裂した篠島漁協のトラフグ漁業の代表者から直接電話が入りました。
「日間賀島は何人そろえることになったのか? 日間賀が30人なら篠島は40人を集める」
私たちが篠島を去った後で、再度話し合いを持ってくれたのでしょうか。
その後、豊浜漁協との交渉では豊浜漁協が10人を動員してくれることになり、3漁協で計80人が集まることになりました。

水産試験場の人が“絶対に無理”と言っていたことが、無理でなくなり、
しかも80人もが協力してくれることに…私たちは達成感で胸が一杯になりました。
本音で当たれば、必ず答えは返ってくる。とことんやらねば。…これが栽培なんです。

放流作業本番
いよいよ本番の朝を迎えました。
一度は交渉が決裂した篠島の漁業者たちは
放流1時間前の午前5時頃にはすでに小鈴谷港に到着し、
放流用のバケツを片手にトラックの前に集まってきてくれました。

そして、ついに漁業者の手による共同放流が始まります。
防波堤の奥まで連ねた活魚車4台から3漁協のトラフグ漁業者が協力して
4万尾のトラフグをバケツリレーで放流しました。
  トラフグの放流に集まった漁業者

  輸送水槽からのトラフグの取り上げ                    豊浜・日間賀島・篠島のトラフグ漁業者80人による放流作業 
後に、この放流群では放流魚の20%が漁獲され、最高の回収率となり4歳まで再捕することができました。
この共同放流試験により、伊勢湾はトラフグの放流に適した場所であることが明らかになったのです。
この時放流したトラフグ種苗は、放流用のため歯を切っていませんでした。
そのため、放流した種苗の多くは尻鰭と背鰭の一部が欠損してしまっていました。
しかし、災い転じて福となす、とでも言いましょうか。
1年後の市場調査で、欠損していた鰭が再生したと思われる痕跡のある放流魚を数多く見つけ、
放流時に鰭が欠損していたことが、放流魚の判別にも役立ったのです。

トラフグ栽培漁業の舞台裏(7)に続きます…)
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