独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
さいばいコラム
No.8  エビちゃんとハタ坊の出会い… 〜120cm水槽の詩〜
2007.04.13
五島栽培漁業センター 服部 圭太

ハタ坊は生後5ヶ月あまりのクエの稚魚。
五島栽培漁業センターで5月に生まれ自然の海を知らずに育った。
体長は10cmちょっとだ。

エビちゃんは南伊豆栽培漁業センター生まれのイセエビの稚エビ。
長い間ガラス細工のような体の幼生期を過ごし、
南伊豆の職員によって養育されてきた。
今年2歳の誕生日を迎えたところである。
スリーサイズはわからないが、体長でいうと5〜6cmといったところか。

ハタ坊は五島栽培漁業センターの玄関で展示水槽に入れられ、
来客に「あら、アラ(九州地方でクエのこと)の赤ちゃんがいるぅ!」
などと言われながら平和な日々を過ごしてきた。
ある秋の日の朝、この展示用120cm水槽に突然エビちゃんが現れたことから物語が始まる。

これは、そんなエビちゃんとハタ坊の出会いの詩である。

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昨年10月、佐賀市で「第26回全国豊かな海づくり大会」が開催されました。
水産総合研究センターでは、会場に小型の観賞用水槽を据え付け
タイマイ、ズワイガニ、ケガニ、マツカワ、イセエビ、キジハタ、クロソイの赤ちゃんたちを展示しました。
人の手によって生まれ育てられた子供たちですが、どの水槽の前にも人だかりができ
栽培漁業センター広報担当のモデルさんとして大活躍してくれました。
その大役を終えたイセエビを五島栽培漁業センターに運び
玄関の展示水槽にそっと放ってみたのです。

稚エビは旅の疲れも見せず
元気よく水槽底に達し、隠れ場を求めて歩き始めました。
水槽には、先住者であるクエの稚魚と隠れ場にするためのシェルターが入っています。
クエもイセエビも一時たりとも隠れ場がないと安心できない性格です。
ついに、シェルターをめぐって壮絶な争いが…
と、思ったその瞬間、意外な光景が眼前にひろがったのです。
稚エビはシェルターの反対側から巧みに侵入し、
中にいたクエのおしりを鞭のようなひげ(第二触角というんですが)で
ツンツンしながらあっけなく外に追い出してしまいました。
クエはいったい何が起こったかわからないようで、
ただシェルターの上のほうで迷惑げにしています。
その後もクエは腹のあたりをざらざらしたひげの先でこすられ
まるで手玉に取られ尻込みしている様子。
ハタ坊はあっさりとエビちゃんに“押し切り”負け
出会いはあっけない結末となりました。

実は、誰もが小柄な稚エビが獰猛(どうもう)なクエに襲われてしまう悪夢を想像していました。
エビちゃん危うし! 
なのに、え? 
1歳に満たない子供とはいえ“荒磯の王者”と恐れられているクエの子でしょ。
どうしたのさ、、、、。 え? 
クエって意外とおとなしい性格だったのか? 
なんとなく「獰猛(どうもう)」とか「凶暴」なイメージがあったけど
案外違うのかもしれない。
実はめちゃめちゃ温厚な魚なのかも…。

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こうして、エビちゃんとハタ坊の出会いは想定外の展開を見せ
微笑ましい中に終わりました。
小さな水槽の中でのこのような生物たちの行動は
海の中での自然の姿とは異なるのかも知れません。
しかし、普段は見せない“本性”のようなものをこうして垣間見ることができたとも言えるのです。
栽培漁業で種苗を放流するときにも比較行動学的実験から得られた知識が役に立つでしょう。
どうです、海の生物をいろんな組み合わせで水槽に入れて観察してみませんか?

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