独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.162 「さわら瀬戸内海系群資源回復計画」
              サワラ放流種苗用餌料の配合飼料化を目指して!       2011/01/17
屋島栽培漁業センター 中野 昌次
1.これまでの経緯
 サワラの種苗生産と中間育成を普及するためには, 使用する餌料の簡素化と給餌作業の省力化が必要です。
 これまで種苗生産の中期以降の餌料として,イカナゴシラスを利用してきましたが(写真1,2), 好不漁により入手が不安定で高価であるため, この代替餌料として入手が比較的容易で安価なカタクチイワシシラスの利用方法を検討してきました。その結果,ビタミン剤を強化することで十分に代替餌料となり得ることが分かりました(トピックスNo.139 サワラの大量放流に向けて−イカナゴシラスの代替餌料としてカタクチイワシの有効性を明らかに−)。

写真1 餌料(イカナゴシラス)を捉えたサワラ稚魚
 しかし,種苗生産から中間育成開始時までにサワラが摂餌可能な大きさのシラスを確保することは,カタクチイワシでも難しいのが現状です。そこで通常入手できる商品サイズの大きめのシラスを細かく粉砕して,配合飼料を混ぜてねり餌に加工し,サワラ稚魚に与えて飼育できないか検討しました。
 これまでは,中間育成開始時のサワラ(全長35mm)には,全長30mm前後の小さいイカナゴシラスが必要でしたが,前年度の飼育結果から入手が容易な40mm前後のサイズのイカナゴシラスでも,細かく粉砕し,配合飼料に混ぜてねり餌にすることでサワラの餌料として使えることが分かりました。
写真2 飽食したサワラ稚魚
2.餌料の原料の比較試験
 本年度は,さらにイカナゴのねり餌を対照区として,カタクチイワシシラス,大型カタクチイワシ及びサバを原材料とした比較試験を行いましたので,その結果を紹介します。

 各ねり餌の調餌には, 材料が余り小さくならないように口径10mm以上のプレートを用いてチョッパーにかけ,成長に応じてビタミン剤,配合飼料の割合を調整して給餌しました(図1)。その結果,対照区のイカナゴシラスねり餌区の生残率と平均全長がそれぞれ67.9%,87.6mmであったのに対し,カタクチイワシシラスねり餌区が69.0%,85.6mm, 大型カタクチイワシねり餌区は65.4%,81.6mm及びサバねり餌区が40.9%,75.5mmとなり,カタクチイワシシラスねり餌区,大型カタクチイワシねり餌区は対照区であるイカナゴシラスねり餌区と遜色なく,餌料として有効であると考えられました(表1)。
 サバについては試験開始時に他の区に比べ,ねり餌の粒子が大きく食べづらい様子が観察されたため,調餌方法の改善が必要と思われました。



 本年度は,種苗生産時の餌料としても,カタクチイワシシラスを砕片肉にし,これに混合飼料(総合ビタミン剤)を添加したねり餌を用いた結果, 当センターで過去最高の23万尾の種苗生産を達成できました。
  また,飼育初期からねり餌に慣れさせたため,その後の稚魚の育成でも餌付きが良く,本年度の飼育試験が終了した90mmサイズのサワラ幼魚にモイストペレットと市販の配合飼料ペレットの給餌を試みると,すぐさま摂餌が確認され,90mmサイズのサワラ幼魚でも市販の配合飼料で飼育が可能であることが分かりました(動画)。
 これにより,飼育管理の省力化が図られ,大型魚の養成が従来よりも容易になるものと考えられます(写真3)。
写真3 水槽内で育成中のサワラ
 今後の課題として,早期からの配合飼料化技術開発についても積極的に取り組み,サワラの種苗生産・中間育成での作業の軽減と低コストでの安定生産を目指して行きたいと考えています。
動画:ドライペレット・モイストペレットの給餌(約1分12秒。6.6MB)
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