独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.141 飼育水へ添加する植物プランクトンがワムシの栄養価に及ぼす影響  2009/02/03
      〜“あっ”という間にワムシの栄養価は変化する〜
能登島栽培漁業センター 小磯 雅彦
玉野栽培漁業センター   團 重樹
 ワムシは海産魚の種苗生産において卵からふ化した仔魚が,最初に食べる生物餌料です。一般的に,海産魚の種苗生産では,飼育開始から2週間程度の期間は餌料としてワムシしか与えないことが多く,ワムシの“栄養価”が飼育する仔魚の生残や発育などを左右するといっても過言ではありません。このため,種苗生産現場では,ワムシの栄養価を高めるために,海産仔魚の成育に不可欠なエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などのn-3系高度不飽和脂肪酸(n-3HUFA)をワムシに取り込ませる“栄養強化”を行ってから,仔魚に給餌しています。
 しかしながら,栄養強化で高めたワムシのn-3HUFA含量が,飼育水槽に給餌された後,飼育水中に添加した植物プランクトンをワムシが摂餌して変化することが100L規模の小型水槽実験で報告されています。飼育水への植物プランクトンの添加は,多くの海産魚の種苗生産で慣例的に行われているため,量産規模での飼育水槽においても同様な現象が起こっていると考えられます。
 また,添加する植物プランクトンにも様々な種類があるため,種類によって変化の度合いが異なることも推測されます。このため,量産規模の飼育水槽を用いて,仔魚が入っていない水槽に,3種類の植物プランクトンをそれぞれ別々に添加して,飼育水中のワムシのn-3HUFA含量の経時的な変化を調べました。
実験方法
 実験区としては,ナンノクロロプシス(ヤンマリンK-1,以下ナンノ区),n-3HUFA含有淡水クロレラ(スーパー生クロレラV12,以下SV12区),淡水クロレラ(生クロレラV12,以下V12区)の3区と,植物プランクトン無添加区(以下無添加区)を設けました。各植物プランクトンの総脂質含量と各脂肪酸含量を表1に,25kL水槽での実験条件と栄養強化条件を図1にそれぞれ示しました。
表1 使用した植物プランクトンの乾物重量あたりの総脂質,EPA,DHA及びn-3HUFA含量
表1.使用した植物プランクトンの乾物重量あたりの総脂質,EPA,DHA及びn-3HUFA含量


図1.栄養強化と25kL水槽における実験条件
図1 栄養強化と25kL水槽における実験条件
 各植物プランクトンの添加密度は,単位あたりの乾物重量を同じにするため,ナンノ区が100万細胞/mL,SV12区とV12区がともに50万細胞/mLとしました。実験水槽には25kL水槽を用い,ヒラメの飼育条件を想定して水温18℃,塩分32psu(海水)の条件で,栄養強化したL型ワムシを各水槽に10個体/mLの密度になるように接種しました。
 なお,栄養強化は,ワムシ密度を500個体/mL,強化剤には“生クロレラω-3(添加基準量:200mL/億個体)”を用いて,水温18℃,塩分26psuの条件で17時間行いました。実験開始後0,3,6,12,18および24時間後にそれぞれの水槽からワムシを採取して総脂質ならびに脂肪酸組成を調べました。
結果
 栄養強化後のワムシの乾物重量あたりの総脂質,n-3HUFA,EPAおよびDHA含量はそれぞれ16.5g/100g,2.8g/100g,1.4g/100gおよび1.0g/100gであり,これらの値を100とした相対値で各水槽でのワムシの総脂質ならびに各脂肪酸の経時的な推移を示しました(図2)。

図2.添加する植物プランクトンの違いによるワムシの総脂質,EPA,DHA及びn-3HUFA含量の変化
 今回の実験結果からは,1.飼育水槽に植物プランクトンを添加しない場合には,開始24時間後には総脂質含量が約20%,n-3HUFA含量が約45%減少すること,2.淡水クロレラを添加した場合には,総脂質含量の低下は認められないが,n-3HUFA含量が開始6時間後で約30%も減少すること,3.EPA含量が高い“ナンノクロロプシス”を添加するとEPA含量が,DHA含量の高い“スーパー生クロレラV12”を添加するとDHA含量がそれぞれ比較的短時間で高くなること,などがわかりました。
まとめ
 栄養強化後に飼育水槽へ給餌されたワムシの栄養価は,飼育水槽へ添加された植物プランクトンの脂肪酸組成を反映して,比較的短時間に変化することがわかりました。具体的には,EPAやDHAを含む植物プランクトンを添加すると,栄養強化と同様にn-3HUFA含量が改善され,EPA含量が高い植物プランクトンではEPA含量が,DHA含量が高い植物プランクトンではDHA含量が高くなり,逆に,EPAやDHAを含有しない植物プランクトンでは,栄養強化で得られた効果が速やかに低減すると考えられました。このため,飼育水槽へ添加する植物プランクトンについては,給餌後のワムシの栄養価にも配慮して適切な種類を選択する必要があると考えられました。
 なお,魚種ごとならびに,同じ魚種でも仔魚の成長段階に応じて添加する植物プランクトンの種類を変えることは飼育テクニックの1つになるかもしれません。