独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
研究情報等
トピックス
No.136 閉鎖循環システムを用いて海がなくてもトラフグ生産が可能   2008/10/15
屋島栽培漁業センター 荒井 大介
 屋島栽培漁業センターでは閉鎖循環式種苗生産の研究開発に取り組んでいます。この飼育方法の利点は前回報告したように,排水が少ないことから「環境に優しく」,加温した飼育水を排水せずに再利用することから「省エネルギー化」に優れ,外部からの注水も少なく病原体の侵入の可能性が低いことから「疾病防除を図りやすい」,さらに荒天などの天候に影響を受けないことが挙げられます(No.121 水を換えずに循環・浄化して再利用する閉鎖循環飼育のお話し)。
 近年,本システムでマダイの種苗生産試験を行い,実証段階に入ろうとしています。このシステムが「他魚種においても通用するのか?」というのは誰もが知りたいところと思われます。そこで今回トラフグで種苗生産を試みるとともに,新たに水道水で海水を希釈した飼育用水で飼育を行いました。
閉鎖循環システムを用いたトラフグ種苗生産の試み
 トラフグの閉鎖循環式種苗生産は過去に2事例行い,ビブリオ病に対する防疫効果が示唆されています。今年度も閉鎖循環システム(水槽容量4KL)を用いてトラフグの種苗生産を2事例行いました。当センターでは配合飼料に餌付いた日齢35〜40頃に噛み合い防止のための密度調整と尾数把握のため,一次取り上げを行います。その結果,11.3mmサイズの種苗を約3.5万尾生産して,生残率は約22%でした(表1)。このことから閉鎖循環システムを用いてトラフグの種苗生産が可能であることがわかりました。
表1 閉鎖循環飼育システムで飼育したトラフグの種苗生産結果
 試験区 水槽容量
(KL)
収容尾数
(万尾)
飼育日数 取り上げ尾数
(万尾)
生残率(%)
100%海水区-1

100%海水区-2
4

4
8

8
35

35
1.7

1.7
21.5

21.5
希釈海水を使ったトラフグの閉鎖循環式種苗生産
 トラフグは本来,稚魚期を汽水域で過ごすことが知られ,実験的には3g程度の稚魚を25%海水で飼育しても,3日間は死亡しないことがわかっています。しかし,希釈した海水でふ化仔魚を飼育した事例はほとんどありません。そこで,新たな取り組みとして,塩分濃度を26psu(80%海水)まで下げた飼育水を用いて,トラフグ閉鎖循環式種苗生産が可能か検討しました。通常行われている「かけ流し」の流水飼育では,淡水による希釈に大変な手間とコストがかかりますが,閉鎖循環式種苗生産では新水の給水が少ないことから,希釈海水の量が少なくてすみます。これは当システムの利点を生かす飼育方法といえます。
 希釈海水でトラフグの種苗生産を日齢35まで行った結果,12.6mmサイズの種苗を約4.6万尾生産して,生残率は約46%,生産密度約1万尾/KLとなりました (表2)。比較のため実施した全海水(塩分濃度32psu,100%海水)での飼育に比べても,成長,生残率とも良好な成績です(図1)。この飼育法では飼育水を希釈しているので,仔魚の餌となるワムシが飼育水中でも増殖しやすい環境にあり,餌料のワムシ培養にかかるコストも軽減できることがわかりました(図2)。
 希釈海水で飼育したトラフグは取り上げ後,すぐに全海水で2次飼育を行っても全く問題なく飼育できました。この試験の成果から,飼育開始時に1回海水を閉鎖循環システム内に貯留するだけで,底掃除等で排水した分を淡水で補給することが可能となることから,海水を新たに給水する必要がなく,陸上でのトラフグ種苗生産が容易になると考えられます。
表2 希釈海水を使用したトラフグの閉鎖循環式種苗生産の結果
 試験区 水槽容量
(KL)
収容尾数
(万尾)
飼育日数 取り上げ尾数
(万尾)
生残率(%)
100%海水区

80%海水区
5

5
10

10
35

35
2.1

4.6
20.5

46.0

図1 異なる海水濃度で飼育したトラフグの成長


図2 異なる海水濃度で飼育したワムシの給餌量と密度
今後の展開として
 屋島栽培漁業センターではトラフグの親魚養成も行っていますが,取水由来と思われる寄生虫の感染や加温コストが課題となっています。そこで閉鎖循環システムを用いて効果的な疾病対策をとることによる,優良な親魚の養成と受精卵の確保も視野に入れています。当システムで採卵が可能になれば,親魚養成・種苗生産・中間育成を一貫して閉鎖循環施設で行うことで,疾病発生の危険性も低くなり,加温コストも削減できます。
 また,陸上養殖を一大消費地である都市近郊で実施することも可能になります。
 さらに,希釈海水を用いた閉鎖循環飼育システムでトラフグを飼育することにより,成長を促進できる可能性があり,種苗をより早く放流サイズに仕立てることや短期間に養殖用種苗を供給することにつながります。

 今後も効率的な種苗生産に向けて,研究開発に取り組んでいきたいと考えています。