独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.094 サワラの世界は男女平等?   2006/09/15
 皆さんご存知のカラスミは,塩漬けしたボラの卵巣を乾燥させたものですが,屋島栽培漁業センターがある香川県では,カラスミは昔からサワラの卵巣で作られています。江戸時代に高松藩では、サワラのカラスミを盛んに作り、藩の名物として幕府に献上していたとの記録もあります。当時でもとても高価な珍味でありましたが、現在は,原料の入手に難があるのと,製造法が難しいのでなかなか入手できない「幻の珍味」となっています。今回はこのサワラの卵巣の話です。
 当センターでは以前のトピックスで紹介しましたように,激減した瀬戸内海のサワラ資源の回復に向けて,関係県と協力してサワラの大規模な実験放流を行い,放流魚の水揚げ量などの「直接効果」を調査しています。この「直接効果」に対して,放流魚が親となって,その子供や孫が水揚げされる効果を「再生産効果」と呼んでいます。今回は,カラスミに使われる卵巣や雄の精巣を調査し,放流魚の「再生産効果」を検討してみました。
 瀬戸内海東部海域でのサワラ稚魚(全長10cm)の放流は,サワラの産卵場である播磨灘を中心に行われています。放流したサワラは成長に伴って秋から冬に紀伊水道側に移動し,越冬した個体が,翌年には産卵海域である播磨灘に戻ってくることがわかっています(図1)。
図1 瀬戸内海東部海域におけるサワラの移動と調査場所
 そこで,産卵期(4月下旬〜6月上旬)に播磨灘の岡山県日生町漁協と兵庫県五色町漁協に水揚げされたサワラ1歳魚(写真1)の調査を行いました。平成15,16年に608尾と388尾のサワラ1歳魚を調査したところ,この中から平成15年には52尾,平成16年には173尾の放流魚を発見しました。サワラ1歳魚は天然魚も放流魚も変わりなく,平均全長60cm,平均体重1.6kgに成長していました。この996尾すべてを解剖して,雄・雌の割合や卵巣や精巣の重さを量って成熟状況を比べました(写真2)。
写真1 魚市場に水揚げされたサワラ1歳魚
(全長約60cm,体重約1.6kg)
 解剖した雄の精巣は,乳白色で全体に弾力性があり精子が出る状態でした。一方,雌はいつ卵を産んでもおかしくない魚もいましたが,卵巣が小さい未成熟な魚もみられたことから,サワラは雌より雄の方が早熟であることが分かりました。雌の成熟の状態は,雌の全長と卵巣の重さから計算した指数で表されますが,サワラの場合,この指数が4以上になると卵を産むことができると言われています。サワラ1歳魚の雌のうち,どの位の割合が卵を産むことができるかこの計算式の結果を集計したところ,平成15,16年における放流魚,天然魚とも50%以上でした。現在より資源量が多かったと考えられる昭和62年から平成2年の調査結果は,約30%でしたから,当時より1歳魚のうち卵が産むことができる魚の割合が大きく増えていました(表1)。この原因は,瀬戸内海のサワラの数が減ったことによって,サワラ1尾が食べることができるエサが多くなり,1年間の成長量が増えたことが考えられます。
写真2 サワラの卵巣と精巣
表1 サワラ1歳雌の成熟度指数(GI)4以上の出現率(%)
   天然魚   放流魚 
平成15年 65.3 63.2
平成16年 53.6 74.6
 昭和62〜平成2年*1 32.5
*1:篠原(1993)より引用
GI=GW/FL*107
 次に調査したサワラを天然魚と放流魚に区別し,雌雄それぞれの尾数を10日毎に合計して雄・雌の割合を比較したところ,天然魚も放流魚もいずれの年も漁期の初期に雄が水揚げされ,その後,雌が増える傾向でした(図2)。このように産卵場への移動は,サワラの世界ではレディファーストとはいかないようです。しかしながら,天然魚,放流魚とも水揚げ盛期である5月合計の値の雄・雌の割合は1:1と,1歳魚までは雄も雌もほぼ同じ数だけおり,男女平等であることが判りました。
 今後は,2歳魚以上のサワラについても,雌雄比の調査を進め,またその結果をお知らせできたらと思います。
図2 サワラ1歳魚の性比の変化