独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.088 トラフグの栽培漁業技術研修   2006/06/26
はじめに
 フグ類は鍋物,刺身,揚げ物,焼き物等の食材として利用され,日本人に大変好まれています。とりわけ天然トラフグはフグの王様とも称され珍重されています。伊勢湾を産卵場とするトラフグ伊勢・三河系群を漁獲する延縄・つり漁は秋から冬が最盛期で,1〜2kgサイズの1,2歳魚を主に漁獲し,この時期の漁業者の大きな収入源になっています。しかし,天然ではたくさん稚魚が発生する年とそうでない年が周期的に出現し,1,2年後に漁獲される時には豊漁,不漁の変化が激しく漁業者は困っています。そこで,南伊豆栽培漁業センターでは平成12年から,東海3県(静岡,愛知,三重)の水産試験研究機関と連携してトラフグ人工種苗の放流により漁獲量を安定させるための実証試験を開始し,種苗生産試験,放流効果調査を進めてきました。調査の結果,種苗放流に適した場所,時期などが明らかとなり,良質な種苗を適正な方法で放流することにより,放流にかかる経費を上回る水揚げ金額を得られることが明らかとなってきました。
トラフグ
栽培漁業技術研修
 南伊豆栽培漁業センターでは,平成18年度から上記の成果を基にトラフグの栽培漁業技術研修を開催し,関係県が事業規模で効率的な栽培漁業を行えることを目的として,トラフグ栽培漁業に関連する種苗生産,放流技術等の技術移転を行っています。技術研修の内容は,4月から翌年1月にかけて1.採卵,2.種苗生産,3.広域的な放流効果調査及び解析手法の3つの工程別の研修を順次開催しています。
採卵研修の実施
 研修の第一段として,本年4月に採卵技術の研修を開催しました。研修では講義と実習により親魚の購入や養成方法,採卵および採精のための成熟促進ホルモン処理方法,人工授精の実習,卵管理方法等,種々の技術を担当者がマンツーマンで指導しました。
 研修生からは「トラフグ短期養成の親魚購入から採卵,種苗生産に供する受精卵を得るまでの一連の流れ,重要ポイントを把握することができ,実際の生産現場に活かせる採卵技術の取得ができた。」との感想が寄せられ,今回研修できなかった成熟促進ホルモンの作成に関する研修の追加受講も希望されています。
人工授精実習の様子
技術移転について
 今回の採卵技術研修については,南伊豆栽培漁業センターが実際に種苗生産を行うための採卵時期に合わせて研修を設定しました。研修生にはできるだけ親魚に触ってもらいながら,人工授精の流れを体感していただくことに主眼を置きました。
 今後,採卵技術に関するフォローアップを行う必要があると考えています。特に,採卵までの過程で最も大変なことは短期養成する親フグの確保です。親フグを確保する時期は1,2月頃ですが,需要が大きいにもかかわらず漁獲量が少ないので,トラフグに関る漁業者,漁協職員,仲買人などの市場関係者の協力を得ながら行います。作業の流れは,先ず,早朝の出漁前漁業者打合せの席で,釣り上げた親フグの中から,釣り針による深い傷がないものを選び,歯を切らずに一尾一尾を個別に船倉に収容して市場に持ち帰ってもらうことをお願いします。昼前から出漁船が市場に到着すると,当センターの職員が漁船に乗り込み,親フグ候補の魚を手に取り,天然魚の確認,性別の判定を行い,仲買人が羨む立派な親フグを厳選して必要な尾数だけ優先的に購入します。このような購入方法ができるようになるまでには4,5年かかりました。
親フグ購入
 栽培漁業を推進するためには地元の漁業関係者との信頼が重要であり,協力者作りから始めて,親フグの確保と引き換えに立派な種苗を放流し,目に見える放流効果を示すことが信頼関係を築く有効な手法と云えます。このような体験を10月以降に開講する広域的な放流効果調査及び解析手法研修の中で研修してもらうことも計画しています。