独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.087 五島栽培漁業センターに「親魚棟」が竣工しました   2006/06/01
 平成18年3月末,五島栽培漁業センターに新たに親魚棟が竣工しました(写真1)。
 この施設は栽培漁業や養殖対象種の親魚が安定して産卵し,大量に質の良い卵を得る技術開発を進めるために建設されました。この親魚棟には産卵試験を行う水槽と,試験のために光や水温条件などを制御できる設備が整備されています。

 五島栽培漁業センターでは,日本の養殖魚の代表種であるブリ類(ブリやカンパチ),幻の魚で高級魚として有名なクエ(「あら」とも言い,あら鍋で有名)を対象に,養殖や放流に必要な稚魚を安定して生産する技術開発に取り組んでいます。これらの稚魚の飼育にとって,親魚を飼育するということは,稚魚を育てるための第一歩に当たる重要な仕事です。いい親魚を育てるには親魚の産卵期のコントロールと,飼育環境の管理が欠かせません。

 写真1 親魚棟
 親魚の産卵期は魚の種類,あるいは同じ魚の種類でも棲んでいる海域によっても違い,このことは養殖や放流に使用される稚魚を生産することに強く関連してきます。例えば,東シナ海南部や薩南海域のブリは2月が産卵期です。この前後に生まれたブリは,約2ヵ月をかけて「モジャコ」(体長3〜5cmぐらいまで成長したブリのこと)となり,養殖の場合はこの「モジャコ」を採り,養殖用の稚魚として育てます。
 一方,五島栽培漁業センターのある九州西岸域では4月下旬から5月上旬が産卵期です。ここで4月前後に生まれたブリが「モジャコ」の大きさになるのは6月で,両者には約2ヵ月という時間の差が生じます。この差はのちに出荷時期のズレ,養殖する期間の延長,コストの増加等につながり,大きなリスクを背負うことになります。
 また,放流についても生まれた時期の違いを自然の海で取り戻すことは困難で,早く生まれた稚魚ほど放流後の生き残る率が高く,成長も早いと言われています。
 そのため,親魚の産卵期をコントロールできる飼育施設が強く望まれていたのです。


写真2 ブリ親魚


写真3 モジャコ
 また,魚の成熟には多くの条件が必要であり,その中でも水温や光等の環境条件は特に重要です。魚は水温の上昇や下降,一日のうちの明るい時間の長,短(日長)で季節を感じることによって成熟,産卵を繰り返しています。マダイやヒラメではこの水温と日長の環境条件をコントロールすることにより,一年中卵を採ることに成功し,ブリでも同様の技術で産卵期を早め,卵を採る技術が開発されています。これまでの親魚水槽には,簡単な加温装置や水槽を覆う遮光幕はありましたが,水温,日長のコントロールが不十分でした。新たに建設された親魚棟には,水槽ごとに加温・冷却装置と照明の制御装置が設けられたため,改善することができました。
 さらには,病原体(ウイルス,細菌)の侵入や増殖を防ぐため,飼育水,排水の殺菌処理装置も備えています。水槽には循環装置を取り付け,新たに使用する海水を減らし,排水の熱を再利用する装置により,コストの低減にも配慮しています。
 こうして,親魚の飼育環境条件を人間が完全に管理できる,世界でも例のない施設ができました。これまでに技術開発された成果を活用し,親魚の産卵期を自由にコントロールでき,いつでも大量かつ良質な卵が安定的・計画的に採れる技術の実現を目指して,職員一同,これまで以上にがんばっていきます。
■親魚棟の概要

建築面積928m2,鉄骨平屋建て

1.親魚飼育用90kl水槽 4面
2.500Lのふ化管理水槽 8面
3.機械室
4.実験飼育室 小型水槽(400L)18面設置可能
5.実験飼育水槽
6.実験室

それぞれ独立して飼育環境条件をコントロールが可能。
特に光は1水槽あたり40wの蛍光灯を32本設置し,照度が0〜最大3000Luxまで任意に調節が可能。

写真4 500Lのふ化管理水槽

写真5 実験飼育室