独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.069 完全養殖に繋がるシラスウナギの生産に成功しました!
              〜養殖研究所の飼育技術の再現性を実証〜   2005/05/10
 志布志栽培漁業センターでは,平成13年からウナギとハモの種苗生産技術の開発に向けた取り組みを開始しています。これらの魚類はレプトケファルスという幼生期から変態期を経て稚魚へと成長します。昨年の6月に,養殖研究所が開発した飼育方法を用いて,ウナギのレプトケファルスまでの飼育に成功したことを報告しましたが,残念ながらレプトケファルスの段階で死んでしまいました。しかし,その後もさらに飼育試験を重ねた結果,昨年飼育を開始した群で遂にシラスウナギまでの飼育に成功し,養殖研究所の開発した飼育技術の再現に成功しましたので,その概要を報告します。
写真1 レプトケファルス幼生
 使用したウナギ親魚は,宍道湖で漁獲された天然個体と当センターでシラスウナギから養成した個体です。これらの親魚には毎週1回ホルモン(サケ脳下垂体抽出液)を投与して成熟を促し,投与開始後9〜16週目に人工授精を行い採卵しました。受精卵は水温21℃で管理し,得られたふ化仔魚は海水で飼育しました。ふ化して8日目から餌を与えますが,この時の大きさはわずか7mmで,まだレプトケファルスの段階にもなっていません。餌は飼育成功の突破口となったアブラツノザメというサメの成熟卵が主成分です。飼育方法の詳細は養殖研究所HPへ。

写真2 産卵翌日の受精卵


写真3 飼育成功の突破口となったサメ卵


写真4 ふ化後8日目のウナギ仔魚
 今回の試験では,47例の飼育試験を行いました。このうちふ化後100日目まで飼育できたのは9例で,合計78尾が生残しました。さらに,変態期まで飼育できたのは4例で合計12尾となりました。変態開始を確認できたのがふ化後194〜333日目,外見上ほぼシラスウナギとなったのがふ化後211〜345日目で,その大きさは51〜61mmでした。なお,シラスウナギになった12尾のうち7尾は形態に異常が見られ,体の構造が大きく変化する変態期の課題の一つとなると考えられます。

写真5 シラスウナギ(ふ化後251日)
 前回のトピックスで,ウナギの飼育では生残率が悪い,成長が遅いという問題点を挙げましたが,今回もふ化後20日目の平均生残率は3.5%と低い値でした。また,成長量も最も良い個体で1日当り0.24mmと,天然個体(1日で0.43〜0.46mm)の半分でした。とはいえ,一昨年の飼育試験の生残率は1.1%,成長量は0.12mm/日でしたから,飼育技術は着実に向上しているといえます。また,飼育条件を変えた試験では,生残率や成長に違いが認められたことから飼育方法にまだまだ改善の余地があることも分かってきました。
 ウナギ飼育技術の開発において,飼育に用いるふ化仔魚の健全性すなわち卵質の向上が最大の課題であることに変わりはありませんが,今後は親魚養成や採卵技術の改良とともに飼育条件の適正化についても検討を重ねたいと考えています。