独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.068 感染ルートを追え!
       〜ウイルス性神経壊死症(VNN)の予防に向けて〜   2005/03/17
上浦栽培漁業センター
はじめに
写真1   ウイルス性神経壊死症(Viral Nervous Necrosis: VNN)は,海産魚の種苗生産場で現在最も恐れられているウイルス病の一つです。原因となっているのはベータノダウイルスと呼ばれる直径25nm程の小さなウイルスです (写真1)。このウイルスに感染した魚はくるくると回転して泳ぐようになり,ほとんどの場合死んでしまいます。また,症状が進むと神経細胞が破壊されることもあります(写真2)。このため,種苗生産場では,一刻も早くVNNの予防法を確立する必要があります。
  写真1 ベータノダウイルスの電顕写真
写真
写真2 VNNによって生じた組織中の空胞(左:脳, 右:眼球)
 ウイルス病の予防を行う場合,ウイルスがどういったルートで感染したか調べることは大変重要です。VNNでは,これまでの研究によって,親から子にウイルスを受け継いで感染する場合と,海水や餌を通して感染する場合との2通りのルートが知られています。このうち,親からウイルスを受け継ぐことを垂直伝播(でんぱ)と呼び,この予防には親のウイルス検査と卵の消毒が効果的です。実際に,垂直伝播によるVNNの発生が多く見られたシマアジの種苗生産では,それらの対策による予防が成功し,再び種苗が安定して生産されています。また,海水や餌を通してウイルスが広がることは水平伝播と呼び,この予防には海水や器具のこまめな殺菌・消毒が大切です。しかし,以上のような対策を講じてもVNNが発生する場合があり,より完全な予防を行うにはウイルスの感染ルートをさらに細かく知る必要があります。

 このようなことから,水産総合研究センター上浦栽培漁業センターでは,ウイルスの遺伝子の分析に基づいた感染ルートの解明に力を注いでいます。ここではその最新の状況についてご紹介します。

クロマグロ種苗でのVNNの分析
 日本での最高級の食材の一つであるクロマグロについては,種苗の大量生産に向けた技術開発が精力的に行われています。しかし,最近ではVNNの発生がその大きな妨げとなっています。また,VNNの発生状況からは垂直伝播が疑われていたものの,親魚が300kgにも達するためウイルス検査が難しく,これまで十分な調査を行うことができませんでした。そこで,発症した仔稚魚からウイルスの遺伝子を分析し,垂直伝播が見られるかどうか調査することとしました。

 調査の対象としたのは,平成12年に発生したVNNです。この年には,9才と6才の2つの親魚群を用いて種苗が生産され,どちらにおいてもふ化後1週間〜20日目までにVNNが発症して種苗が大量に死亡しています。また,ウイルスの遺伝子の分析は,PCR法(Polymerase Chain Reaction法)と呼ばれる手法で十分な量になるまで遺伝子を増やした後(図1, 写真3),シークエンサーと呼ばれる機械で行いました (写真4)。


図1 増幅したベータノダウイルスの遺伝子領域(T4領域)

写真3 ベータノダウイルスの遺伝子の電気泳動像。
矢印の位置の白いバンドが増幅された遺伝子。

写真4 塩基配列の分析に用いたオートシークエンサー
 分析の結果,遺伝子にわずかな違いが見られる12種類のウイルスが見つかりました。それらの関係を図に表したところ,そのうちの7つ(A, B, D, E, F, G, H)が互いによく似ており(図2),それらは主に6才の親魚群に由来する種苗から採取されたものでした。また,9才の親魚群からも特有の遺伝子が見つかりました。これらのことから,クロマグロの種苗生産で発生したVNNは垂直伝播によって感染したものと推測されました。

図2 クロマグロ種苗で発生したベータノダウイルスの類縁関係と由来する親魚群との関係
おわりに
 今回は,クロマグロ種苗のVNNでの分析についてご紹介しました。クロマグロ種苗においては,以前は可能性としてしか想像されていなかったウイルスの垂直伝播がより具体的に捉えられるようになり,ウイルスの遺伝子の分析が感染ルートの解明に有効であることが示されました。このため,今後この方法を発展させることによって最も効果的な予防法を明らかにすることができると考えられます。近い将来,その成果を皆さんにご紹介できれば幸いです。