独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.065 平成16年度ヒラメのネオヘテロボツリウム症の防除技術研修   2004/12/03
 水産総合研究センターでは,専門的な知識や開発した技術を都道府県栽培漁業センター等の担当者に習得していただくために,様々な技術研修を実施しています。ここでは,小浜栽培漁業センターで行った,ヒラメのネオヘテロボツリウム症の技術研修についてご紹介します。
はじめに
 日本海西部沿岸では,1990年代の中頃より漁獲されたヒラメ天然魚に,鰓が顕著に褪色し貧血症状を示す個体が見られるようになりました。その後,同様の症状を示すヒラメがほぼ全国の海域でも出現するようになり,大きな問題となりました。当初は,天然海域における疾病と考えられていましたが,養殖魚や種苗生産場の養成親魚にも発生し死亡する例も見られたことから,ヒラメの種苗放流事業に大きな支障が出ることが危惧されました。

 このため,水産総合研究センターや大学では,これらの貧血症状を示すヒラメの出現要因について研究した結果,吸血性単生類であるネオヘテロボツリウムNeoheterobothrium hirame (写真1)の寄生が原因であることが明らかになりました。特に,栽培漁業部では,貧血症状の診断方法とネオヘテロボツリウムが寄生したヒラメの治療方法についての技術開発を行い,種苗生産現場での防除技術を確立しました。

写真1 ネオヘテロボツリウム
Neoheterobothrium hirame
 本研修では,これらの開発した技術を種苗生産現場の担当者に紹介し,ネオヘテロボツリウム症について十分な知識を知っていただくことを目的にしています。したがって,種苗生産現場での寄生状況や貧血状況の調査にいかせるように,ネオヘテロボツリウムが寄生したヒラメ(写真2)を用いて採血や治療の技術を習得していただきました。

写真2 寄生状況
技術研修の概要
 技術研修会は平成16年11月10〜12日の3日間,福井県小浜市にある小浜栽培漁業センターで開催し,福井県,山口県,高知県の栽培漁業センターおよび水産総合研究センターから計4名の参加者を得て実施しました。
 研修初日は,午前中にヒラメのネオヘテロボツリウム症に関する現在までの知見,親魚養成における駆虫方法および当歳魚の寄生状況の調査結果を紹介し(写真3),午後以降はネオヘテロボツリウムが寄生したヒラメを用いた実習を行いました。
 実習項目は以下のとおりです。

1. 色見プレートを用いた鰓の色の観察
2. 採血法(写真4),ヘマトクリット値の測定および分光光度計によるヘモグロビン量の測定
3. 血液塗抹標本(メイ・ギムザ染色)による血球の形態観察(写真5)
4. 口腔壁と咽頭部におけるネオヘテロボツリウム成虫の寄生,および寄生痕の確認と駆虫方法
5. 濃塩水浴によるネオヘテロボツリウム成虫および未成熟虫の駆除
6. ネオヘテロボツリウム未成熟虫の鰓への寄生の確認方法,およびグリセロールゼリーによる標本の固定法


写真3  講習風景

写真4  採血作業

写真5 血液塗抹標本作成
研修者の感想
 以下に研修参加者の感想文の一部を抜粋し,掲載させていただきました。
・ 現場では行えないHt値,Hb濃度の測定等行うことができ,貴重な経験となった。
・ 現場での観察,対処の仕方,標本の固定等の技術が習得でき,勉強できて非常に良かった。
・ 今後は,現場でネオヘテロボツリウム症が発生しても,研修を受けたおかげで慌てず,冷静に対処ができる。
・ 実際の親魚管理と併せた研修ができれば良かった。
・ 魚のサイズによって防除方法に違いがある。親魚管理面での応用が県レベルで必要としている技術である。
おわりに
 今回の研修では,生産したヒラメ種苗にネオヘテロボツリウム症が発生した場合の診断法や治療法を中心としたため,実習に使用したヒラメが全長10〜15cmと小さく,県の種苗生産現場における親魚管理へ応用するというニーズには十分に対応できなかった部分がありました。一方,濃塩水浴による寄生虫の駆虫実習では,口腔壁に寄生した成熟虫の表面が溶解して死亡する様子に皆さん感心されていました。
 小浜栽培漁業センターでの本研修は初めてですが,今回の反省点をふまえてより実りのある研修にしていきたいと考えています。