独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.062 進む!遺伝子レベルの栽培漁業技術開発
          −希少種マツカワのふ化仔魚確保技術−   2004/10/18
厚岸栽培漁業センター
 マツカワは北日本における重要な水産資源です。しかし,近年は漁獲の減少が著しく,水産庁の「日本の希少な野生水生生物に関するデータブック」では,希少種に指定されています。マツカワを今後も持続的に利用していくためには,漁獲の管理だけでなく,積極的な資源の回復に向けた対策を講じる必要があります。
 ただし,生息数が減少してしまった希少種では,進化の過程で獲得してきた遺伝的変異が近親交配や偶然の変動により喪失されるため,人為的な手立てを施す際には,遺伝子レベルでの適正な対応が求められます。
 そこで,独立行政法人水産総合研究センター厚岸栽培漁業センター(以下「厚岸栽培センター」)では,東北大学大学院農学研究科集団遺伝情報システム学研究室と協力してマツカワの遺伝的な要因に配慮した栽培漁業技術の開発を進めています。
 マイクロサテライトと呼ばれる遺伝子の繰り返し配列に見られる多型をDNAマーカーとして利用し,厚岸栽培センターの陸上水槽で周年養成している成熟親魚について,個体間の遺伝的な血縁度を明らかにしました(写真1)。そして,遺伝的な血縁度が低いと判断された雌雄から精子と卵を搾出し人工授精することで近親交配を最大限に回避しました(写真2,3)。さらに人工授精を実施する際には,保有するすべての雌親から卵の搾出を試みること,および得られた受精卵を雌親由来毎にふ化まで個別管理し,各親魚由来のふ化仔魚が同数となるように種苗生産水槽へ混合して収容することで,遺伝的な偏りが最小となるように配慮しました(写真4,表1)。

写真1 親魚の鰭から抽出したDNAをPCR法で増幅した後,電気泳動法によりマイクロサテライトの繰り返し数の違いを検出する
(東北大学集団遺伝情報システム学研究室にて)。

写真2 雄親魚から搾出した精子(中央の容器)と
交配する組合せを記した計画表

写真3 雌親魚から卵を搾出する。
(写真の個体は全長75cmに達し,
二人掛かりで水槽からすくい揚げる)

写真4 人工授精により確保した受精卵をふ化まで管理するための水槽
(同型の水槽を20器並べて雌親毎にふ化まで個別管理する。
それぞれの水槽はシートで隔離し,飛沫による病原体の拡散を防止する)
表1 マツカワ親魚由来別のふ化仔魚確保状況(平成15年度 量産2ラウンド)
 以上のような手法により,放流用種苗における近交係数の上昇と遺伝的多様性の低下を回避する事に努めています。今後は,DNAマーカーを指標とする最小血縁個体選択法を採用することにより,遺伝的多様性の高い継代用親魚集団を形成する計画です。併せて健全な種苗の量産技術や種苗の効果的な放流手法などについても研究を積み重ね,わたしたち国民が恒久的にマツカワを利用できるように栽培漁業技術を向上させていきたいと考えています。