独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.061 東海三県(静岡県,愛知県,三重県)との連携によるトラフグ放流調査の取り組み   2004/09/01
はじめに
 ふぐと言えば下関が有名ですが,東海三県(静岡県,愛知県,三重県)が全国でも屈指の天然トラフグの産地であることは,あまり知られていません。トラフグは漁獲量の年変動が大きい魚種ですが,冬季に地先で操業でき魚価も高いことから,漁業者はトラフグの栽培漁業に熱い期待を寄せています。
 東海三県で漁獲されるトラフグは,稚魚期を伊勢・三河湾で過ごし,1歳になると熊野灘から遠州灘,駿河湾の海域で延縄漁により漁獲されるようになります。南伊豆栽培漁業センターでは,この系群の栽培漁業の定着と促進を支援するために,東海三県と連携して,当センターで生産した人工種苗に標識をつけ,移動状況と適正な放流サイズ等の検討を行っています。
 今回は,標識放流に用いたイラストマー標識の保持状況,東海三県が行った市場調査による回収率,遠州灘で漁獲される放流魚の混獲状況と成長,および新しい標識調査手法への取り組みについて紹介いたします。
イラストマー標識の保持状況について
 東海三県と南伊豆栽培漁業センターでは,平成12年からイラストマー標識(着色シリコン 赤,黄,緑,橙)を用いて標識放流調査を行っています。この標識は,紫外線ライトを照射し専用のサングラスで検査しますが(写真1),装着後,時間が経過するにつれて体内に埋没し,識別できなくなる場合があります。そこで,南伊豆栽培漁業センターでは,標識を装着した種苗を水槽内で長期間飼育し,標識の識別状況(標識保持率)を試験しました。その結果,放流を行った8月時点の標識保持率は93%でしたが,3カ月後には88%,さらに14カ月後には79%まで低下することがわかりました。このデータを利用して,東海三県が行っている市場調査で得られた放流魚の回収率を補正しています。

写真1:イラストマーで標識したトラフグ放流魚。
紫外線ライトと専用のサングラスを用いて調査する。
1歳魚の回収率について
 東海三県が平成15年に行った市場調査の結果では,平成14年に愛知県常滑市で放流した群(1歳魚)の回収率は,駿河湾・遠州灘で2.1〜2.4%,渥美外海・伊勢湾で1.5〜2.8%,熊野灘では0.05〜1.26%となり,1歳魚(写真2)全体の回収率は7.3〜8.3%であることがわかりました。

写真2:再捕された1歳の放流魚
放流魚の混獲状況と成長について
 平成14年は,熊野灘から駿河湾までの海域に,標識魚・無標識魚あわせて76.8万尾の人工種苗を放流しました。平成15年10月〜平成16年1月に,浜名漁協の延縄漁により遠州灘で漁獲されたトラフグ24,600尾のうち,7,410尾を調査(調査率30.1%)した結果(表1),放流魚の指標となる尾鰭変形(写真3),鼻孔隔皮欠損,吻下部にある縦縞黒色素およびイラストマー標識のあるトラフグが641尾確認され,混獲率は8.7%でした。また,再捕されたイラストマー標識魚の全長から,放流後の成長は14カ月で37cm,26カ月45cm,40カ月52cm(写真4)であることがわかりました(図1)。
表1 浜名漁協における放流トラフグの混獲状況

図1 イラストマーで標識したトラフグの放流後の成長

写真3:放流魚の指標としている尾鰭上部の変形

写真4:放流後約40カ月で再捕された全長52cmの個体。
イラストマー標識により放流魚と判別
新しい標識調査手法の試み
 トラフグの浜値は1kgあたり1万円前後と非常に高いため,標識を調査するためのサンプルを大量に購入することは困難です。現在,魚市場で行っている標識調査では,セリ前のわずかな時間に仲買人と漁業者の了解を得て,細心の注意を払いながら活魚水槽で泳いでいるトラフグのイラストマー標識の確認作業を行っています。このため,正確な調査を行うことが出来ず,標識の見落としなどデータの不正確さが危惧されています。
 そこで,南伊豆栽培漁業センターでは,新たな標識調査の手法を検討しています。昨年,静岡県内に「遠州灘沖ふぐ加工協同組合」が設立され,遠州灘沖の天然トラフグのブランド化に取り組んでいます。この加工組合は,天然トラフグの身欠き加工を行い,地元での消費拡大を行っています。今後,南伊豆栽培漁業センターではこの加工組合の協力を得て,加工する際に除去される耳石のALC標識(写真5)と,切除した鰭のイラストマー標識の調査を試みる予定です。

写真5:ALC(アリザリン・コンプレクソン)で染色した耳石標識