独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.057 実験池に放流したトラフグ人工種苗の食害   2004/07/01
百島栽培漁業センター
 栽培漁業では水産資源の維持・増大に取り組み,全国の栽培漁業センターでは人工的に育てた稚魚(人工種苗)を天然海に放流する試験を行っています。しかし,放流した人工種苗は放流初期に大きく減少(減耗)することが知られており,種苗放流の効果を向上させるためには,この時期の減耗要因を明らかにし,それを防除する手立てを講じることが重要です。
 一般的に,放流した人工種苗の減耗は,放流した場所から他の海域へ逸散してしまうことを除くと,ヒラメやスズキなどの大型魚介類による食害が最も多いと考えられています。しかし,天然海域では放流した種苗の追跡調査や観察が非常に困難であるため,減耗の実態はほとんど解明されていません。
 今回,試験の対象としたトラフグについても,放流初期の減耗の実態はほとんど分っていません。また,トラフグは毒を有するために大型の魚介類が捕食するか否かが疑問とされてきました。
 そこで,放流したトラフグ人工種苗の食害による減耗の実態を調べるために,塩田跡地を改良し天然に近い環境を再現した実験池を利用して,大型魚(スズキ)による捕食試験(模擬放流試験)を行いました。
試験の方法
 実験池(底面積5,300m2,長さ125×幅43m)を仕切網で2分し,捕食魚として体長30cmのスズキ30尾が存在する区(試験区)と存在しない区(対照区)を設定しました。
 それぞれの区に,屋島栽培漁業センターで生産した体長3cmのトラフグ種苗300尾を同時に放流しました。放流直後から,刺し網でスズキを捕獲し,トラフグの摂餌状況を調べました。なお,トラフグ種苗には,イラストマーという色素を用い,色と標識部位により個体識別ができるようにしました。
 試験期間は20日間で,試験終了時に池内の海水を全て排水し,生き残ったトラフグとスズキを回収しました。この時点で,出てこなかったトラフグは,対照区の生残状況と比較し,死亡または捕食されたものと考えました。


図1 模擬放流試験の方法
結果と考察
放流20日後のトラフグの生残率は,捕食魚の存在しない対照区では83%であったのに対し,捕食魚の存在する試験区では36%と低くなりました(表1)。
 また,スズキの胃内容物からトラフグが確認されたことから(写真1),放流したトラフグはスズキによって捕食され,食害が放流後の減耗の原因であることがわかりました。ところが,スズキの胃内容物からトラフグが確認されたのは放流後3日目までで,4日目以降はまったく確認されませんでした(図2)。
表1 捕食魚の存在下でのトラフグ種苗の模擬放流試験の結果概要
 
試験区(捕食魚あり)
対照区(捕食魚なし)
放流
終了
放流
終了
尾数(尾)
296
106
300
250
体長(mm)
24.5
43.4
24.2
38.7
生残率(%)*
35.8
83.3
*X2検定で有意差あり p<0.001

写真1 スズキに捕食されたトラフグ人工種苗
放流当日の夕方に捕獲したスズキ1尾の胃中から出てきた,
捕食されたトラフグ。胸鰭のイラストマー標識が確認できる

図2 スズキによるトラフグ人工種苗の捕食状況(試験区)
 そこで,トラフグの食害調査と並行して,放流後の行動の変化についても調べました。その結果,捕食魚が存在する試験区では,放流3日目からトラフグが水面近くに群がる行動が観察されたのですが,捕食魚が存在しない対照区では,群がりはまったく確認できませんでした。このことから,群がり行動はスズキの捕食に対するトラフグの反応であり,食害の回避に関係する行動であると考えられました。
 本試験によって,放流直後の食害によるトラフグの減耗を防止できれば,かなりの高率で放流種苗を天然の資源に加入させることが可能であること,食害の回避に行動が関与していることがわかりました。
 今後,食害と行動との関係についてさらに調査を進め,食害に遭いにくい放流種苗を飼育する方法や放流方法の開発に取り組みます。