独立行政法人 水産総合研究センター 栽培漁業センター
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No.056 ブリの戻し交配家系を用いたイリドウイルス感染試験
                     〜ブリの育種をめざして〜   2004/07/01
はじめに
 ブリ養殖業における種苗の確保は,すべて天然モジャコに依存しているのが現状です。しかし,天然種苗の確保はその年のモジャコの資源変動に大きく左右され,安定した種苗の確保は困難な状況にあります。そのため,養殖業界からは養殖用人工種苗を計画的に生産するための技術を開発するとともに,耐病性あるいは高成長などの優良な形質を有する人工種苗の生産技術の開発に大きな期待が寄せられています。
 そこで,五島栽培漁業センターでは,これらの形質を有する親魚の選抜に活用できるゲノム情報を得ることを目的として,栽培漁業で開発された技術に最新の分子生物学的手法を取り入れることにより,耐病性の遺伝子を見つけ出す技術の開発に東京海洋大学と共同で取り組んでいます。
 この遺伝子を見つけ出す分子生物学的手法には,子とその実の親をかけあわせた家系(戻し交配家系)を用いるのが一般的です。ここでは,ブリの養殖場で大きな問題となっているイリドウイルス感染症に対する耐病性を解析するための戻し交配家系の作出と,それを用いた感染試験結果の概要を紹介します。
戻し交配家系の作出
 戻し交配家系作出のため,2000年に当栽培漁業センターで作出したブリ雌親魚とヒラマサ雄親魚の交配種(F1)を養成した雄親魚と,同F1の実の親であるブリ雌親魚を人工授精により,2003年4月26日に交配させました(図1)。
 この交配により,総採卵数41.3万粒,受精卵数33.4万粒を得ました(表1)。これらの受精卵から22. 4万尾のふ化仔魚を得,その内15.4万尾を陸上水槽7面で飼育しました。
 6月3日(日齢35)に6,500尾(生残率4.2%)を取り揚げ,その後,さらに陸上水槽で飼育を継続しました(表1)。飼育はブリの従来の飼育と同様に行い,できた種苗(図2)は次項の感染試験に供しました。


図1 戻し交配家系作出の方法


図2 作出した戻し交配家系

(日齢53,全長81mm)

表1 ブリの戻し交配家系の作出概要
総採卵数
(万粒)
受精率(%)
*1
ふ化率(%)
*2
飼育開始尾数
(千尾)
取り揚げ
日齢
尾数(尾)
生残率(%)
41.3
80.8
54.2
154
35
6,500
4.2

*1 (受精卵数/総採卵数)×100
*2 (ふ化仔魚数/総採卵数)×100
イリドウイルスによる感染試験
 前項のとおり作出した戻し交配家系を用いて,イリドウイルスによる感染試験を行いました。まず,試験に先立って,実験水槽において水温25℃条件下で8日間,馴致しました。その後,希釈したイリドウイルス液(マダイ病魚磨砕液)を魚体の腹腔内に1尾当たり100μL接種した7試験区と,ウイルスの希釈に用いた液(ウイルスの入っていない液)を同じく1尾当たり100μL接種した非接種区の合計8区を設けました。
 試験には,平均全長114mmの種苗を50尾ずつ用い,配合飼料を給餌しながら,別々の100L水槽で飼育を継続しました(図3)。飼育水温は25℃を維持しました。なお,試験期間は20日間とし,死亡魚は直ちに取り揚げ,脾臓を摘出し,蛍光抗体法により陽性と判定された個体をイリドウイルスの感染による死亡魚としました。
 イリドウイルスによる死亡は,ウイルス非接種区ではみられませんでした。一方,ウイルス接種区では,イリドウイルスによる死亡が接種後11〜18日目にみられ,試験期間中の累積死亡率は14.6〜24.0%となりました(図4に代表的な例を示しました)。
 対照としたブリおよびヒラマサにおける累積死亡率は,ブリで56.0%,ヒラマサで3.9%でした(図4)。このように,戻し交配家系におけるイリドウイルス感染試験での累積死亡率が,ブリとヒラマサの中間に位置したことから,イリドウイルスに対する感受性には宿主の感受性に由来する遺伝的影響を受けていると考えられました。

図3 感染試験風景

図4 戻し交配家系での感染試験におけるイリドウイルスによる死亡状況
次へのステップ
 今回,戻し交配家系の作出に成功し,それを用いたイリドウイルスによる感染試験を行ったことで,ブリにおけるイリドウイルス感染症に対する耐病性の遺伝子を見つけ出す第一歩を踏み出すことができました。
 今後は,感染試験で得られたデータおよび使用した各個体の遺伝情報をもとに,分子生物学的手法を用いて耐病性にかかわる遺伝子をみつける作業に入ります。